そんなのつけちゃって、馬鹿みたい。男のくせに前髪なんか分けちゃって。無造作に散らせておけばいいし、ワックスなりなんなり使って上げちゃえばいいのに。あんなピンつけちゃって。女みたい。


「おい」
「ん?」
「お前ピン持ってるだろィ」


ほらまたこうやって、いつもいつも私のところにピンを借りにくる。生憎、私はそんな派手なピンは持ち合わせていません。そう小さくぼやくといつもの黒いのでいいんでィとか返ってきた。
もうお前に貸すピン残ってねーよ馬鹿。


「私アンタに何本貸したっけ?」
「家帰って風呂入ると気が付いたら無くなってるんでさァ」
「本当許さない絶対わたしに買って返してよね」


これでもう最後の1本。50本入りのを安く買ったのに。私もピンよく無くすからこれでしばらくはもつと思ったんだけどなあ。1日1本、アイツに渡してる。アイツと関わりを持って今日で50日。こんなに仲良くなるとは思っていなかった。



『私、ヘアピンつけてる男子好きかも』


そう言った私の親友。その言葉を聞いたのかどうか分からないけどその日の昼休みにアイツが私にピンをもらいにきた。(いや借りに、か)そのときは前髪も長かったし邪魔なんだろうなって思って貸したけど、その日からアイツは親友と仲良くなった。(というか、ヘアピンをつけたアイツを見て親友がやたらめったら声かけただけ)

まあでも間接的に利用されたことには変わりないわけじゃん。あっちにそんなつもりはなくてもね。うん、分かる。

毎日毎日借りにくるアイツにもウンザリ、猫なで声出してる親友にもウンザリ。てめえらの恋に私を利用するな。腹立たしい。親友から借りりゃいいだろ、(こないだいっぱい買い込んでたし)めんどくせえ。アイツは親友のことをどう思ってるか知らないけど少なくとも親友はアンタのこと好きだよ。

ああもう、お前らでイチャついててくれよ本当に。


「今日で50本目。もう私の手持ちにピンはないよ」
「へェ、お前のピン無くし続けて50日目かィ」
「反省してないでしょアンタほんと引っ叩くよ。見つけるなり新しく買って返すなりなんなりしなさいよね」
「50本記念にこれあげまさァ」


何寝ぼけたこと言ってるんだ。無くし続けた記念に?何を寄越すって?そう思っていたらアイツが乱暴に私の手の中に何かを押し込んだ。手の中を見て見てるとアイツに合わない可愛らしい袋に入った飴があった。


「は?もしかしてお前あの50本をこの飴一つで見逃してもらおうとでも思ってんの?」
「俺がそんな薄情な野郎に見えるかィ?」
「当たり前」
「そりゃひでーや」


子供みたいな笑みを浮かべながらケタケタ笑う。ああ、この顔を見れるのが私だけだったらイイのに。これでしか関係を持つことができなかったけどこの50日、ほんの少しだけど楽しかったし幸せだったかな。

もらった飴を口に放り込む。甘酸っぱい。私の気持ちみたい。なんてね。


「なァ、俺ァあんたのことーーー…「総悟くーん!おいでー!」
「ほらヘアピン男、呼ばれてるよ」
「…………………おう」


なにか言いかけたあいつ。呼ばれた瞬間に浮かべた歪んだ顔。何を言おうとしてたのかも分かるよ。知ってるよ。50日しか関わり持たなかったけど私には分かる。知ってる?アンタ、案外分かりやすいのよ。


「ピンの代わりに飴渡しやすから」
「はあ?マジで言ってる?いらないいらない」
「50個。1日1個」


ふい、と視線を逸らしながら言うアンタ。耳、真っ赤だよ。こっちから思い切り見えてますよ。いつもみたいな強引さはどこへいったのやら。


「毎日ちゃんとくれたら、またピン貸してあげる」



ヘアピン系男子

そう言えば、真っ赤な顔をしてこっちを見る。おいおいやめてよそんな顔で私を見ないで、私も顔真っ赤になっちゃう。簡単な男ね、ほんと。そんな私も簡単な女ね。でも、この関係が心地いいから今はまだこのままでいようかな。女々しいアンタは自分から動けなさそうだから、50日後、私がアンタが思ってることを私から伝えてあげる。


2014.12.27

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