僕は勇者リンク。町の人からだって愛されてるし、小さい子達にも人気だし、女の子からもモテる。

この世界を守った勇者だ。

それにこの顔。キリッとした釣り上がった目に、凛々しい眉毛に、高い鼻。完璧だと思わないか?


そんな完璧な僕には幼馴染が2人いる。


1人目はイリアで、2人目はname。どちらかというとイリアの方が数倍可愛い。

笑った顔は太陽みたいだし、怒った顔もそれなりにそそるし。それにあの緑がかった金髪のサラサラヘアーに、ほのかに香る甘い香り。それとあのクリクリした大きい目。

実に完璧で僕にぴったりな幼馴染だよ。


それにくらべてnameは髪の毛は黒くて少しくせっ毛になっている。nameから微かに香る匂いは森林の匂い。森にずっといるから少し土臭い。目の大きさは二重まぶただけれど決して大きいとは言えない。

神様というのは不平等だね。
こんなに僕とイリアは素敵で完璧な容姿で生まれてきたのにもかかわらず、nameはこんなに残念な容姿で生まれてきてしまったんだ。

あまり美しくない人を、僕は好まない。

街に住んでいる女の子達はそれなりにまあ可愛いから喋ったりはするよ、もちろん。でも可愛くない人には適当にあしらうけどね。

おじいさんおばあさんには適当に笑顔を振りまけばいい印象を与えることができるし、小さい子供には適当に構ってあげれば懐いてくる。

こんな世の中なんだよ、そう。


だけど、幼馴染という関係は少し複雑で。決して美しいとは断言できない幼馴染と僕は毎日一緒にいる。

容易く断ち切ることのできないこの鎖。いい迷惑だ。美しい人とならずっと一緒にいたい。そう、イリアとなら。でも、対して可愛くもないnameとは一緒にいたくはない。自分までなんだか醜くなっていきそうだからだ。


こんなに完璧な僕がなんでこんなことで悩まなくちゃいけないんだ。世界を救った、この偉大なる勇者が、どうしてこれっきりのことで悩まなくてはいけないんだ。


空を掴んだ手は虚しくすり抜けていき、地へと降りたった手を強く、強く握りしめる。


「リーンク」


頭上から僕を呼ぶ声が聞こえる。寝転がっていた僕は上半身を起こしチラリと横目で相手を確認する。


聞き慣れた声の主はnameだった。

nameは目線を僕に合わすようにしゃがみ込みニコリと微笑んだ。美しくもない人が美しくなろうと微笑んだって、意味なんかない。そう僕は考えているのに、何故か胸がギュッと締め付けられる。
ああ、とても苦しい。苦しい。


「はい、これ」


本来の目的であったのであろう。nameはポケットからあるものを取り出すと僕の首に手を回して何かをつけた。ふわりと香ったnameの匂いは、僕が嗅いだことのない暖かい、お日様のようないい香りだった。


「何これ?」


首に取り付けられたものを見てみると手作りであろうネックレスが下げられていた。チェーンにnameの大好きな花をモチーフにした飾りが取り付けられていた。今日は僕の誕生日か?いや、それは違う。それとも今日は女性が男性に何かを送る日なのか?そうしたら僕はあらゆる女の子達から色々なものをもらうであろうに。

それじゃあ、一体なんなんだ。


「私、城下町に住むことになったの」


nameの言った一言に思考が止まる。

今、何と言った?城下町に?何故だ?ここからいなくなるということなのか?何故?


「この間城下町に行ったときにある男性に会ってね、その人とお付き合いさせてもらっててさ」
「それで来月結婚することになったから、とりあえず城下町に一緒に住もうって話になって…」
「だから、私ここから出ていくの」


幸せそうに話すnameの顔。
満面の意味で、とても可愛らしい。
本当にその人のことを愛しているのだなと痛感した。

そう分かると胸がとてもとても苦しくなって。うずくまりたくなった。目頭が熱い。何故だ。


「だから、会えなくなるし、リンクに忘れられたくないから、それあげるね」


にっこり笑ってみせるnameの顔。それなのにどこか切なさを感じさせられる。それを見れなくて、渡されたネックレスについている花を見つめていた。nameの好きな花、薔薇。

nameは立ち上がるとまたいつか会えたらいいね、という言葉を残しこの地を去っていった。

僕の胸につかえるこの思いが何が何だか分からないまま、nameはいなくなってしまった。



nameがいなくなってから数年。
風の噂が流れてきた。

どうやらnameは旦那さんに売られたらしい、と。旦那は人身売買をする売り手で良さそうな子を見つけては時間をじっくりかけて調教し、売り出すというとんでもない輩だった。噂がこちらに流れる頃にはその男は城下町から消えていて、nameとその男が今どこで何をしているのかは全く分からない。事実を知った僕は胸が今までにないくらい苦しく、締め付けられてとても辛かった。


そういえば、女の子から聞いた話じゃ、薔薇の花の花言葉は

「あなたを愛しています」

という意味らしい。
この胸の苦しさを消し去るためにはあのとき、僕がnameを引き止めておけば良かったのだろうか。


あのとき、僕が引き止めておけば、nameはずっとここにいたのだろうか。

あのとき、僕が。


あのとき、僕が、きちんと自分の想いに気付いていればこんな想いをせずにすんだのではないのだろうか。

大切な人を失った胸の苦しさと虚無感を抱いたまま僕は笑顔の仮面を被りながら生きていかなくては。


ああ、あのとき、僕が、

僕がきちんと好き、と伝えておけばこんなことにはならなかったのだろうか。



世界を守った救世主は世界で一番不幸になりました

(むかしむかし とても かおが ととのっている まちのひとから したわれている ゆうしゃさまが いました)
(ゆうしゃさまは いつも たくさんの おんなのこと いっしょにいて いつも えがおで いました)
(だけれど あるひを さかいに ゆうしゃさまは おんなのこと いっしょに いなくなり ゆうしゃさまからも えがおが きえてしまいました)
(ゆうしゃさまは いうのです)

君がいない世界を救ったって意味がない

(そう いうのでした それから だれも ゆうしゃさまの ことを みていません)


2014.12.27

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