終焉の者を倒してから数ヶ月が経った。スカイロフトはいつも通りの賑わいで、実に平和だった。
これもリンクが身体を張って長い長い旅をして世界を救ったから。


でも、そんなリンクと話すことはもうない。

ゼルダを助けてバドもリンクもみんなこっちに戻ってきたと思ったら、バドはボロボロ泣いているし、どうしたのと尋ねてみればゼルダは大地に暮らすって言ってるらしくて。それにリンクもゼルダと一緒に大地で暮らすらしくて。

バドはずっとゼルダのこと好きだったから、もうゼルダに会えないってなると辛くて、悲しくて仕方ないんだろう。
でも、バドはいつでも大地に降りれば会いにいけるじゃない。
大丈夫よ、バドは。またすぐに笑顔になれる大丈夫。


ぼー、と窓の外を眺めていると鳥達が仲睦まじくチュンチュン鳴いて羽をパタパタ懸命に動かしてじゃれあっている。

ああ、いいなあ。私もああいう風に自由になれたらなあ。

そんなことをぼんやりと考えていたら部屋のドアがけたたましい音を立てて鳴り響く。


「name、久しぶりだね!」


けたたましく音を立てていたドアが開いた。あらいやだ。二度と会えない、会いたくないと思っていた人に会ってしまった。いや、会うというよりかは一方的に訪ねてこられたんたがね。

私はお久しぶり、と顔に張り付けただけの笑顔を見せて笑ってみせた。

どう?私、きちんと笑えてるでしょ?

リンクは何を思ったのかは知らないけど私が笑ったら目をうっすらと細めた。とても、悲しそうな目だった。


「ゼルダ、外にいるんだ。会いにいかないかい?」
「ごめんなさい、私気分が優れないから…」
「そっか、残念」
「ゼルダによろしく、って言っておいて」


リンクのことも、私の想いも、何もかもよろしく。
私はもうリンクとゼルダには会いにいけないから。ごめんね。


「じゃあ、あの、少し空を一緒に飛びたいな……」
「…ごめんね、それもちょっと」
「お願い」
「布団から出たくないの」
「…name、お願い」


どうしてそんなに私に執着してくるの。やめてよ、お願い。私が惨めになるだけだから!

どうしても私と一緒に空を飛びたいのか、リンクは少しだけ私の方に歩み寄ってきた。
私は歩み寄ってきたリンクに来ないで!と叫んでしまう。

ピタリ、と止まったリンクの動き。ああ、またそんな目で見る。やめてよお願いだから。


「…お願い、そんな目で見ないで……」


やっと出た声はとても震えていて自分でもこんな声を出すつもりはなかった。

私に言われてから気付いたのかリンクは私に向けていた目を少しだけ暖かくした。自分でもそんな目線を向けたつもりはなかったのか小さな声でごめん、と言った。

自分が悪いのに、何だかとても申し訳ない。


「name、僕のこと待っててくれる、って言ってくれたよね」
「うん」
「僕が帰ってきたら、一緒に空飛んでくれるって言ったよね」
「うん」
「飛びにいこうよ」


まだ言うのか、まだ。しつこい、しつこすぎる。私はもう空を飛べない。飛びたいのに、リンクと一緒に、最後に、飛びたいのに。


「私はもう空飛べないの!!」


色んな思いを込めて叫んだ。
自分への不甲斐なさ、リンクと一緒に空を飛びたい、いう事を聞いてくれない自分の身体。
まだまだ胸の中にあるものを全部全部吐き出してしまいたい。

私は自分の身体を覆っている毛布を剥いだ。空気にさらされる私の身体。この場の空気が一変するのが分かった。いやでも分かってしまう。空気に晒された私の身体は両足、膝から下がない。無くなってしまったんだ。


「name…っ!?その、その足……!」


驚きを隠せないリンクは声を震わして私の方へ歩み寄る。さっきみたいに突き放せたりしない。

痛々しそうに私の足をなぞる。
ああ、触られてる感触すらない。ただチリチリとする心の痛みを感じる。辛い辛い辛い。


「リンクが帰ってくるだいぶ前にね、空飛んでたの。そうしたらね、でっかい竜巻に巻き込まれてね、空にいる魔物に足やられちゃって。そんでね、先生に足見てもらったんだけどね、どうしようもないんだって。助かるにはね、足切るしかなかったんだって。だからね、足、切ったの」


震える声、こみ上げてくるものを全部抑えて人生最大のトラウマを言う事ができた。

泣いてないよ、きちんと笑えてるでしょ?


「リンクが帰ってくるって、帰ってくるって信じてたの。リンク、帰ってきたときに、私がいなかったら泣いてしまうでしょ?だから、足、足、切って……、リンクが帰ってくるまで、私、生きてきたよ」


ここまできちんと言えた。言えた。言ったところで耐えられなくなったのかリンクはありったけの力を込めて私を抱きしめる。


「name、ごめん、ごめんね、ずっと一人だったよね、ごめんね、ごめん、寂しかったね、ごめん」


私の気持ちを代弁してくれるかのように、ポロポロと涙を流してくれる。それだけで私の心は救われるんだよ、ありがとう。


「name、ごめんね、でも僕、ゼルダと一緒に大地に行かなくちゃいけない。変えなくちゃならないんだ、この世界を。変えなくちゃ」
「いいの、分かってる。分かってる。全部分かってるから。いいの」


やっと帰ってきたリンク。ずっと一緒にいたい。傍にいてほしい。

私の傍にずっと、ずっと、いてほしい。離れないで。

好きなの。大好き。

離れてなんかほしくない。
行ってほしくなんかない。


自分の胸の奥底に秘めている思いを抑え込んで偽りの仮面を被る。
ずっとこうして生きてきた。
こうじゃなきゃ生きられなかった。

リンクの目がとても悲しそうで、こちらまで悲しくなってしまうけど、私はもう弱音は吐いたりしないって決めたから、だから、もう。


「好きだったよ、リンク」


想いを伝えて、終わりにしよう。







窓越しから見つめるリンクの背中は昔みた頼りない小さな背中ではなくて、大きくて頼りがいのある背中になっていた。

これからはその背中でゼルダを幸せにするんだよ。


ロフトバードに乗った瞬間リンクがこちらを見たような気がした。

まさか、そんなはずはあるまい。
あちらからじゃ私のほうは見えないのだから。


さ、いってらっしゃい。
最初で最後の私の初恋の人。



バイバイ、大好き

(僕も好きだよ、name)
(背中越しに感じる君からの視線を胸に抱いて僕はここから去るよ)
(サヨナラ、大好き)


2014.12.26

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