「ねー、リンク!リンクってばー」
「…あのねえ、いい加減しつこいと僕本当に怒るよ?」
「いつもそうやって言ってるけど本気で怒ったこと一度もないじゃない!」


ブチッ。
そこで多分僕の堪忍袋の緒がきれたんだと思う。多分。

授業中いつも寝ている僕はホーネル先生に罰として明日までに課題を全てやってこいと言われた。
その課題の量が尋常じゃなく多くて、絶対に今日だけじゃ終わらないであろう量を渡された。

そんな厳しい状況を楽しむかのようにnameは口元をニヤニヤさせながら僕にちょっかいを出してくる。

いや、本当に今は切羽詰まってるから誰にも部屋にきてほしくないし誰とも話をしたくないんだ。

そのことを言ったのにも関わらず人のクローゼットを勝手に開けるわ、ベットには寝転がるわ、椅子の背もたれを掴んではガタガタ揺らすわ、人がものを書いてれば机を揺らして字を書かせなくするわ、邪魔をするばかり。

いくら幼馴染だからと言っても流石に限度というものがあるじゃないか。

nameは何をしたいのか分からないけど、いいたいことがあるなら、やりたいことがあるなら最初からきっぱり言えばいいんだよ。

何かをしたいときに限ってめんどくさく絡んできたりするから。それが僕は嫌なんだ。


堪忍袋の緒が切れた僕はガタッと椅子から立ち上がり机に顎を乗っけてこちらの様子を伺ってたnameの胸ぐらを思いっきり掴んだ。

当の本人は本当に僕が怒るとは思わなかったのか目を丸くしてただただ驚いている。


「僕がいつまでもヘラヘラ笑ってお前のすること許すと思ってんの?僕だって怒るときは怒る。いいから邪魔するな」


いつもより低めのトーンで言い、言い終えたら掴んでいた胸ぐらを乱暴に離した。

いきなり離されたnameは床にどてっと尻餅をついてただただこちらを見てくるばかりだ。


「言いたいことあるならちゃんと言って。そうやって遠回しに行動するところお前の悪いところだよ。それに、そういうのウザイから」


僕が最後に言い放てば、nameの顔がだんだんと歪んでいき気付けば目からポロポロと涙がこぼれていた。

泣いたことには少し僕も戸惑ったけどたまにはこうしないと本当にnameは分かってくれない。

いつだってこうしてきた。
今回は大分キツめに言ってしまったけれども。


「……よ、……………う…」


ボソッと聞こえたnameの言葉がよく聞こえず「なに?」と尋ねなおした。


「いいよ、もう!知らない!リンクのバカ!最低!じゃあもういなくなればいいんでしょ!!バカ!」


拍子抜けした。

まさか、ああ言われるとは思わなかった。いつもなら、泣きそうな顔をしてごめんね、ごめんね、って謝ってきたのに、何だ。今日のname。いつもと違った。どうしたんだ。

ポカンと口を開けて唖然としているとnameは既に部屋からいなくなってしまっていた。







窓から差し込む日の光が橙色になってきた頃にはもう課題を終わらせていた。

どうにかして終わらせることができたけれど、さっきのnameの態度が気になってしまい集中できなかった。

あとからどんどん自分の言ったことに罪悪感を感じてきて、そんな自分にもムカムカしたしnameのことが分からない自分にもまたムカムカしていた。

そんなイライラを押し殺し課題をただただひたすらやり続けた。

気晴らしに外の空気でも吸おうと思いドアを開けようとするとコンコン、と誰かがノックした。ドアを開けると血相を変えたゼルダが息を切らしながら立っていた。


「リ、リンク!name知らない!?」
「name?何で?」





地を思いっきり蹴り駆け出す。そして足に力を込めて地を蹴りフワッと身を宙へ託す。そして薄暗い世界へと吸い込まれる。


『リ、リンク!name知らない!?』
『name?何で?』
『どこ探してもいないの!もうこんな時間なのに…、そろそろミーちゃん達が凶暴化しちゃうのに…』
『………nameが、いない?』
『そう!スカイロフトにはいないみたいで……こんな時間だし大地に行くわけにもいかないし…』
『……』
『それに、name……今日誕生日だから…』
『!!!!』
『あっ、ちょっとリンク!?どこ行くの!』


nameは僕におめでとう、って一言言ってほしかっただけなんだ。きっとそうだ、絶対にそうだ。
それなのに僕はすっかりそのことを忘れていて自分のことしか考えていなかった。

nameに、誕生日おめでとう、って言ってやれば良かっただけなのに。


『いいよ、もう!知らない!リンクのバカ!最低!じゃあもういなくなればいいんでしょ!!バカ!』


あのとき、そう言っていた。

一つだけひっかかる。いなくなればいいんでしょ、と言っていた。もしかすると、もしかしなくないかもしれない。嫌な予感しかしない。嫌な汗が額に流れる。じわあ、とどんどん出てくる。

nameと喧嘩したときにいつもnameが決まって行く場所はフィローネの森だ。

フィローネの森に着地し、とりあえず一通り捜してみる。

辺りは暗くなってきている。
いくらここがまだ安全とは言ったってまだここには魔物が潜んでいる。安心はできない。


ぽつり。


頭上から何かが降ってきた。雨だ。雨が降ってきた。これは大変なことになってきた。雨が降るとスカイロフトに戻れなくなってしまう。一刻も早くnameを見つけて連れて帰らなくては。

そう思った矢先、向こう側に横たわる何かが見えた。

コブー達ではないのだろうか?
思っていたことは当たった。案の定コブー達がいた。あるものを囲んで。


「あ……」


僕に気付いたコブー達はさささとあるものから離れて僕の近くに寄ってきた。僕のズボンをキュッと掴むものもいれば、ブーツにしがみつくのもいる。そんなのも全く気にならなかった。と、いうか、気にする暇がなかった。

目の前にはあまりにも痛々しい状態のnameがいたから。

服の隙間から見える肌はみんな赤くて、どこでそんな攻撃を受けてきたんだと問いただしたい。


「僕が…襲われそうなのを助けてもらったキュイ……」


マチャーがか細い声で言う。泣いているのだろうか、小刻みに震えている。すごい消えそうな声だった。

頭の中が真っ白になった。

さっきまで喧嘩してはいたけれども話していたnameが、ヘラヘラ笑ってたnameが、涙を流してたnameが、頬を膨らまして怒っていたnameが、nameが、

今自分の目の前で冷たくなって横たわっているではないか。


何の夢だ、何の夢だこれは。
何の夢なんだ。夢だ、これは夢だ。そう認識しようとしても頭が現実だ!!!と叫んでいる。


「name」
「おい、name」
「おま、え、今日。誕生日、だろ」


やっと振り絞って出た声はまるで蚊の鳴くような声で、もう声ではないのではないかと思った。

それなのに、nameは何の反応も示さない。目を硬く閉ざし口はだらしなく半開きになっている。
口の切れ端から、血が。血が。

殻になってしまったnameの身体を抱き寄せる。冷たい。冷たい。こんなのnameじゃない。nameじゃない何かだ。こんなにnameが冷たいわけがないんだ。

nameは、いつも、太陽みたいに、暖かい。


そう思ったのと同時に、雨がとても強く降り出した。


クソ、やめてくれよ。
まるで僕の心を表してるみたいじゃないか。

やんでくれよ、雨。

空も、心も。


冷たいnameを抱きしめ真っ暗な空を見上げ力一杯叫ぶ。

name、目覚ましてくれないかなあ



驟雨

(冷たい、冷たい)
(このまま俺も冷たくなってしまいたい)
(でもそれはきっと許されないんだろうなあ)


2014.12.26

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