久しぶりにマサラへ戻ることにした。グリーンが早く戻ってこいだのしつこいから。俺だって俺なりに頻繁に戻ってるつもりなんだよ。母さんにだって会ってるし、博士にだって顔を合わせているし。マサラに戻ってるっていったらちゃんと頻繁に戻ってる。

……三、四ヶ月に一回のペースでだけど。


そんな生活を続けていたら痺れを切らしたグリーンがポケベルを使ってしつこく連絡するようになってきた。

前までは全然連絡寄越してこなかったくせに今更何なんだ。というか雪山にいるのにどうしてポケベルが繋がるんだ。それが1番の疑問になった。


久々にくるマサラはいつも通りで変わりは全くなく懐かしいような気持ちになった。

何よりも、落ち着く。

とりあえずグリーンのところへ行こうと思い足を進める。


「…レッ、ド……?」


聞き覚えのある声が俺の名前を呼ぶ。昔からずっと一緒にいた、幼馴染の声だ。


「name?」


そう、確認するように呼んでみたら相手は俺に駆け寄るなりぎゅうっと抱きついてきた。

どうやら相手はnameで間違いないらしい。にしても少し身長が伸びたのではないのだろうか。自分よりかは頭一個分は違うけど大分伸びたように見える。髪の毛も伸びてて、昔のような幼さが感じとれない。

呑気にそんなことを考えていると頬に感じる痛み。何だろう、ジンジンしてる。


「何年も何年も連絡一本寄越さないで何してたのよ、このバカレッド!!」
「……い、ひゃい…」


抱きついてきたかと思えばいつの間にか離れてぐっと力を込めて俺の頬を抓っていた。そんな小さい身体のどこから一体こんな力が出てくるのかが不思議てたまらない。とりあえず、とても痛い。


「グリーンには顔出すのになんで私には顔出さないのよ!幼馴染でしょうが!!」
「……グリーンが勝手に………」
「それとも何!女には言えない男の秘密!?」
「……違う…」
「ずっと心配してたんだからね!ポケベル鳴らしたってアンタ私からの一回も出てくれたことないじゃない!」
「………それは電波が…」


やっと話してくれたかと思えばnameからの質問攻めが凄くきた。

nameに会わなかったわけじゃなくて俺が帰るときにえみりがいないだけであってお互いの都合が合わないだけで…。

グリーンには会うけどnameとは本当に数年振りの再開だった。


「……連絡、しなくてごめん…」
「ほんとだよ!ありえない!」


一向に機嫌が治りそうにならないnameを見て俺は少し困った。
機嫌が悪いときのnameは本当に扱いがめんどくさくなる。

小さい頃、俺とグリーンで先に釣りしに行ったときなんかおいていかれたーと言って大泣きしたうえに俺たちがお詫びの気持ちを込めておやつのプリンをあげたというのに3日経つまで機嫌が治らなかったときがあった。

その日から俺はnameには極力気を使うようにしていた。
でも今はもう年も違うし変わってしまったから流石に大人になっただろうと思っていた俺がバカだったらしい。やっぱり、昔のままだった。

困ったなあと思いながら帽子を深くかぶりなおす。すると、nameの小さい手がそっ、と俺の服の裾を掴んだ。次はなんだろうと思い少しだけ顔をあげるとグリーンがいた。その隣には、最近できたらしい彼女もいる。


「何だ、帰ってたのかレッド!」


お前帰ってくるなら連絡しろよなーだなんて言いながら俺に駆け寄る。彼女の手をしっかり掴みながら。近付いてきたのと同時に俺の服を掴むnameの力が強くなった。


「……その人は」
「ん?あぁ、おぉ、俺の彼女」


頬をほんのり染めながら言うグリーンを見ると少し胸がモヤッとした。新しいグリーンの彼女は気が強そうで少し偉そうだった。ほのかに香る香水の匂いがツン、とくる。あまり好きではない。


「こっちにはしばらくいるつもりなんだろ?明日にでもゆっくり話そうぜ」


そんじゃ俺は行くな、と言い残し彼女と共に去っていく。去り際に見えた彼女の表情がやけに勝ち誇ったような、ふてぶてしい笑みを浮かべていた。

それは、俺に向けられた顔ではなくnameに向けての顔に見えた。

ざまあみろ、とでもいうような、顔だった。


「れ、っど」


やっと聞き取れるようなか細い声で俺を呼ぶname。今にも消えてしまいそうな感じで、見ているこっちがとても嫌だった。


「少し、離れに行きたい」




nameの要望に応え、俺はマサラから少し離れた土手に来ていた。

川の近くに腰をおろしサラサラと流れる川の音を聴いた。2人で特に何を話すわけでもなく、ただジッと川を見つめていた。


「あのね、私、グリーンのこと好きだったんだ」


おもむろに口を開いたかと思えば突然の暴露。
俺は驚いてnameの顔を覗き込んだ。nameはただ真っ直ぐを見つめてそばにあった小石を川に投げ込んだ。


「告白、してね、そしたらね、あの人がやってきてね、グリーンにね、俺彼女いるからさ、って、断られてね」


子供が話すみたいに途切れ途切れに言葉を切って話す。川に投げ込まれる小石の数が増える。


「諦めようと思ったの。そしたらね、あの人がね、私に見せつけるかのようにね、グリーンと一緒にいてね、それでね、たくさんね、意地悪してくるの」


声が少しずつ大きくなる。
川に投げ込まれる石の数は減った。


「毎日、毎日毎日毎日!毎日!意地悪してくるの。もう、私、耐えられなかった」
「…」
「グリーンに相談したくてもできないし、私、マサラからあまり出たことないから友達少ないし、」
「…」
「レッドもいないし、私、今日、レッド来てくれなかったら、もう、どうなるかと、思った」
「name」


泣くのを必死にこらえるnameの顔を、声を、感じきれなくて名前を呼ぶ。nameはハッ、としたようにあわあわとし始めた。


「やっ、やだ…ごめんね、レッド。急に変なこと…」
「一人にさせてごめん」
「…え?」
「寂しかったね」


僕はどうやって傷付いた君の心を癒せばいいのかなんて知らない。

ただ、辛そうな君を見ているのはとても嫌だ。

僕がそう、nameの顔を見ながら言ったら枷が外れたように大きな瞳からボロボロと涙がこぼれた。



こんなことしかできないけど

慰め方を知らない僕は、戸惑いながら君の手を握った。


(握ったら、声を張り上げて泣いた)
(好きなだけ、泣いたらいい)
(もう君を一人になんかさせたりしない)


2014.12.26

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