あの日を境に私があの六つ子達の妹だということが学校中に知れ渡ってしまった。知れ渡ったことはもう仕方ないと長男であるおそ松は腹を括ってはいたけれど、それでも気に食わないと思っている弟達は数人いたようだ。できることなら私だって彼らの妹だと知られたくなかった。穏便に過ごして、何不自由ない2度目の学校生活を謳歌したかった。だが、血の繋がりは無いと言えども彼らは私にとって唯一の家族であることに間違いはない。そんな彼らの誹謗中傷を黙って聞いていられるほど我慢強くはないのだ。自分のことはいくらでも言えばいい、けれど彼らのことをとやかく言うのであれは話は別だ。それは許されない。
極力彼らに迷惑をかけないように物申してくる輩たちを蹴散らそうとは思ったのだが何にせよ圧倒的な力の差と、私が女であるということで勝敗は目に見えていたのだ。ああ実に不甲斐ない!
迷惑をかけまいと思っていたが私の行動は末っ子に知られてしまいそこから兄達にも知られてしまった。その日のことはもう思い出したくもない。彼らと取っ組み合いになるほどの大喧嘩に発展してしまったのだ。母の仲裁が無ければ私は絶対に怪我だらけだったに違いない。

はてさて、今日はどうしたものか。3日ぶりの登校はとても心にくるものがある。皆の視線に耐えられる気がしないのと、今まで私と仲良くしてくれていた人たちが今後も仲良くしてくれるという保証がないということ。穏便かつ楽しく過ごしたかった学校生活が崩れていくのが目に見えている。本当にどうしたものだろうか。教室が近づく度に足が重くなっていく。もうこのまま帰ってしまいたいけれどそれをきっと父と母は許してくれないだろうし、何よりもあの6人の兄達が最も許してくれないだろう。だが教室に入るのが本当に怖くて仕方ない。どうしたらいいのだろうか!今日は保健室で1日過ごすというのはどうだろう。迷惑をかけてしまうのは保険医だけである。申し訳ないとは思うが今日1日だけでいいのだ。1人で落ち着く時間が欲しい。そう考えながら廊下で立ち往生していると勢いよく腕を引っ張られる。緩く掴んでいた鞄はその勢いで手から離れてしまう。咄嗟に鞄を掴み直そうとしたがグイグイと引っ張られてしまうので鞄手放すことになってしまった。一体誰だこんな乱暴なことをするのは!そう思い相手の顔を見ようと顔を向けたら後方から頭を殴られた。私の意識も鞄と同様手放すことになってしまった。

目を覚まして視界に真っ先に入ったのは赤黒い鉄パイプだった。それを見て私はああしまったと唇を強く噛む。捕まってしまったのだ、彼らに憎しみを抱いてるであろう奴らに。私が松野兄弟の妹だと知って、大方私を捕まえれば彼らをおびき寄せるだろうとでも考えたのだろう。だがそんなのは大きな間違いだ。彼らは私が捕まったところでどうも思わない。仮に本当に血の通った兄妹だとしたら彼らは血相を変えて今すぐ飛んでくるに違いないだろう。よってあの六つ子は、私を助けに来ない。こいつらにこれをどう説明をしたらいいのかが分からない。きっと説明したところで理解をしようとはしないだろう。ジャリ、と小石が地面に擦れる音で反射的に顔を上げてしまう。体格の随分と大きい男が舐めまわすように、品定めでもするかのような目付きで私を見ていた。ただ単に気持ち悪い。図体がでかいというだけで圧迫感を感じるのに、つけすぎている香水の匂いに追い打ちをかけられる。

「よォ、えみりチャン」
「…どうもはじめまして。どなたでしょうか」
「名乗るほどのモンじゃねェさ」

フッと鼻で笑いながらくしゃりと髪の毛をかきあげる仕草にゲェと舌を出したくなる。その図体にその仕草、なんというミスマッチ。私と同じ目の高さまでしゃがみ込んで目を合わせる。じっと見つめ返すとにたりとまた不敵に笑う。

「…あの、六つ子達を呼ぼうとしているのなら、来ませんよ。彼らは」
「ほう?」
「形だけです。彼らは私に情など抱いてはいない」
「そうかそうかァ…カワイソウなんだなえみりチャンは」
「は?」

思いもよらない言葉につい眉をしかめる。男はまたにやりと笑う。どうやら六つ子達が目的なわけではなさそうだ。では一体何が目的だというのだろうか。まさか、私?そんなわけではあるまい。六つ子達のように誰かから恨みを買うようなことはしていない。穏便かつ楽しく学校生活を送りたかった私は普通に、ごく普通に過ごしているだけなのだ。そんな私が誰かの恨みを買うだなんて、そんな馬鹿な話があっていいわけがない!

「俺ァさ、えみりチャンに用があるんだよね」
「のわりには随分と手荒な真似をしてくれますね」
「こうでもしなきゃ俺みたいなやつには付いてきてくれはしねェだろ?」
「さぁ?」
「ヒヒッ、つめてーんだな」
「…私に用とは」
「んーー…」

曖昧な間延びした声に「大したことじゃあねェんだが」と続ける。生憎だが私はこの男とは初対面なのだ。私に用があるにしても、背後に10人は超えるであろうお仲間を連れる必要はあるのだろうか?きっとろくでもない用に違いないだろう。そう思い顔を伏せた瞬間、勢いよく服を割かれる音が耳を劈いた。露わになる自分のインナーに目を大きく見開く。一体何が起こった?何をされた?状況が理解出来ず私は顔を上げ男を睨みつけた。

「えみりチャンに惚れててよォ、だからァ〜…俺の女になってもらいてェなって」

肩に手を置かれインナーにも手を置かれる。何という顔で、何とおぞましい言葉を放つのだこいつは。あ、と情けない声が漏れたのと同時にまたインナーをビリビリと破る音が耳に入った。ああ、私は今からこの男に犯されるのだと痛感した。




back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -