厳しかった冬が明け暖かな風が木々を揺らす頃、その厳しさに比例して綺麗な花を咲かせる樹がある。薄桃色の花弁は五枚しかないが、数えきれないほどの花が樹に寄り添うことで樹木自体が桃色に色付いたかと錯覚させるその様は圧巻の一言につきる光景だ。

そして今がその時、つまりは花見日和なのだ。




「だからね、外に出よう?ミュレ」

「いやだ」

「もう春なのにいつまでも引きこもってたら邪魔…じゃなくて体に悪いよ!だからほら、一緒にお花見に行こうよ!」

「いーやーだー」

「いやだじゃないよ!桜すごく綺麗だったよ、満開だったよ!」

「だが断る」



先程からずっと口論(?)をしている二人は、かれこれ20分程この言い合いを続けている。
なぜかというと、ミュレと呼ばれた方の男がいつまでたってもホリデー気分でパソコンとランデブーしているからなのだ。簡単に言えば、パソコンの前から離れようとしないのでこの上なくうっとうしい。

それに対する男はボルトというが、彼はミュレに早く自立してほしい―というか引きこもるのをやめてほしい―と思っているので、そのせめてもの切っ掛けにするべく必死に花見へ誘っている訳なのだ。



そうしてまた10分20分と時間が過ぎた頃、あまりに不毛な戦いに痺れを切らしたララムとフルールがボルト側に加勢にやってきた。



「こらニート!いつまでボルたん苛めてるのさ!早く支度して外に出ろー!」

「出ろー」


「わっ、二人とも…ほら!ミュレ、パソコンを消して早く外に行こう?」

「そーだそーだ!あんまり外に出ないとフルールが…」

「お前の触角を引っこ抜くぞ」

「ほーら、引っこ抜いちゃうんだぞー!」

「触角じゃねえし!引っこ抜けねえし!シャットダウンもしないし 外 に も 出 な い !」


一蹴とはまさにこのことである。


「ご、強情な…。なんでその粘り強さを他に活かさないんだろう…」


そしてあまりに話が進まず諦めかける人が一人、顔を両手で覆いいかにも悲しそうな雰囲気を出している。今までの苦労がにじみ出ているかのような悲壮感は見るに耐えないものがあり、彼は一体どんな生活をしてきたのかと疑問に思う程であった。


「ああぁ、ボルたん泣かないで」

「なーかせたー」

「ニートさいあくー、せんせーにいーったろー」

「えいりあんさいてー」

「だまらっしゃい!俺はいいからお前たちだけで行け。俺はいいから。本当にいいから。」


ちなみに『自分はいいから皆で行って』とは引きこもりの常套句である。(参考資料:自分)


「ニートはよくても皆がダメなんですぅー」

「邪魔」

「いつまでもパソコンの前にいてご飯だけ食べるなんてずーずーしいの!」

「穀潰し」


「ほ、ほら!二人がこんなにミュレと行きたいって言ってくれてるのに外に出ないなんて勿体ないとは思わない?ね、ね!」

「どこがじゃ!どうみても罵倒です本当にありがとうございました。ていうかフルールお前さっきから酷いなコラ」

「本当のことしか言ってない」


「俺の方が年上なんだからもう少し敬えよ」




―ミュレがこの一言を言いはなったとたん、その場が凍りついた。それはもう咲いた花も散る勢いで。そして部屋にいた者全員も凍りついた。ただ一人ミュレを除いて、ではあるが






「…年上がボクたちより働かず、かつ光熱費は人一倍持っていくこの現実でどう敬えっていうのさ」



「………」



ララムは勇者の素質があるかもしれない。



「皆の役割分担、前決めたよね?いまお前の役割誰がやってるか分かってる?」

「……ボルトさんです。」


これがミュレの負けが確定した決定的瞬間であった。


「それみたことかー!ニートこそボルたんを敬うべきだよね!」

「あがめたてまつれろー」

「い、いやそこまでしなくても…」

内心、崇め奉られたら正直気持ちわるいと思ったことは秘密にしておこうとボルトは考えていた。


「あー!分かったよ、行けばいいんだろ行けば」

「えっ!?それってまさか…!」

「はなみにぃー行けばぁーいーぃんだろー」

「ああもう面倒くさそうに言うなあ君は!でも行ってくれるならありがたいな、これで掃除がはかど…えっへん、桜を見た感動を分かち合えるね!」

「咳払いでごまかしても無駄だからな、全部聞こえたからな」

「全くミュレは無駄なところだけ繊細だよね」

「さりげなくひどい!」







こうしてミュレは花見に行くはめになった。しかし今は絶賛お花見日和、とどのつまりは人がたくさんいるということなのだが、彼が無事に帰ってこれたかは定かではない。








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春ですね!
文章書くのはむずかしいです。



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