菊丸英二くん。 彼はふわふわしていて、きらきらしていて、わたしの憧れの男の子。誰にでも優しくて男の子だと言うのにかわいくって、好きと言う意味でも羨ましいと言う意味でも憧れなのだ。菊丸くんとはじめまして、をした時からわたしの心の中はぽかぽかし続けていて、まるで一年中春みたいな、柔らかい気持ちでいられる。好きなのかも…なんて気持ちを自覚してからは、ぽかぽかしていた心がきゅうっと締め付けられるような、そんな、言葉に出来ない感情がわたしの中で渦巻いた。あぁ、好きなんだ…わたし菊丸くんのこと…。わたしの大切な、男の子。そんな菊丸くんが今日、15歳のお誕生日を迎えた。今日で菊丸くんのお誕生日を祝うのは3回目になる、1回目、2回目とも菊丸くんに向かって直接“おめでとう”なんて言えなかったけれど今日は勇気をだして、言ってみようと思うんだ。だって今日で最後かもしれない、から。中学生最後のお誕生日、次は一緒の高校に行けるか分からないから、だから…今日だけは。 「菊丸くんおめでとう!」 「英二も15歳か〜」 「菊丸くんの為にケーキ作ってきたの!」 「わあっ!みんなありがとう〜!俺ってば幸せ者だにゃ〜」 ふわふわしてて、きらきらしてる菊丸くんの周りにはいつも沢山のお友達が居る。恥ずかしそうに頬っぺたをかく菊丸くんを見ると、少し寂しいような切ないような、そんな気持ちもするけれど、照れ笑いから幸せそうに微笑む姿を見ていて、わたしも嬉しくなった。きゅうっと心臓が苦しくなるけれど、菊丸くんが同じ空間に居る、それだけでわたしも幸せになれる。わたしは菊丸くんにたくさんの幸せを貰った、だから今日は菊丸くんがたくさんの幸せを貰える日なんだね。 初めて作ったビスケットはちょっとだけ不細工ビスケットになった。菊丸くんに似合うオレンジ色のリボンをつけて、鞄の中に入っている不細工ビスケットをいつ渡そうか悩んでいれば、あっという間に放課後になっていた。このまま行けば、菊丸くんは河村くんのお家で開かれるお誕生日パーティーに行ってしまう。そうなると、今日中にプレゼントを渡すどころか、おめでとうの言葉さえ言えなくなっちゃう。それだけは嫌だなぁ、と胸の内で思い立ったわたしは不細工ビスケットを持って走り出していた。 …好き、菊丸くんがどうしようもないほどに好きなの。教室内ですれ違う度に触れられたらって考えちゃうし、席替えをして席が近くなったりしたらずっと菊丸くんを見ちゃう。不二くんと二人で話す姿を見ては、不二くんが羨ましいとまで思ってしまうぐらい。話しかけないのはわたしで、菊丸くんはわたしの名前、存在さえ知らないかもしれないと言うのに。こんな不細工ビスケットを渡して…菊丸くんに迷惑じゃないかな…。運動が苦手なわたしが走って走って走って、やっと見つけた愛しい彼の背中。 『っき、菊丸くん…っ!』 そう呼べば、大きな瞳と目が合う。その瞬間、あり得ないぐらい心臓がバクバクした。きゅうっとなって、うまく口から言葉が出ない。どうしようどうしようどうしよう…菊丸くんの隣にいる不二くんも不思議そうにわたしを見ていて、わたしは小さく俯いてしまった。…ばかだ、なんで……なんで言わないの…?おめでとうって、言えばいいのに、うまく言えない。そうして俯き続けていると菊丸くんがふとわたしの名前を呼んだ。 …苗字じゃ、なくて。 下の名前をちゃん付けで。 その瞬間、わたしの目からはぽろぽろと涙が零れだしてしまった。嬉しい、わたしの名前…ちゃんと知っててくれた。それだけでわたしは幸せだった、もう他は何もいらない。いきなり泣き出してしまったわたしに菊丸くんはびっくりした様子でわたしの側に来てくれて背中まで撫でてくれた。菊丸くんがわたしに触れてる、そう思うと余計に涙が出てきてとうとう泣くだけになってしまった。 「どったの〜!?気分悪いのかにゃ?不二ぃ〜」 「ふふっ、英二が女の子を泣かせる日が来るなんてね。僕は先に行くよ、ごゆっくり」 「え!不二!ちょっと待ってよー!」 ああ、ごめんなさい。 わたしのせいで、困らせてごめんなさい。ただ、ただ菊丸くんにおめでとうって言ってプレゼントを渡したかっただけなの。それだけでわたしは満足するはずだったの。 お誕生日なのに、迷惑かけて、ごめんなさい。 『き、くまる…くん…っ』 「ん?もう大丈夫?びっくりしたにゃ〜」 『あの…ごめん、なさい…』 「いいのいいの!俺はだいじょうぶいっ!」 『あのねっ…菊丸くん!その…、』 「ちょっとちょっと〜、落ち着いて!こういう時は深呼吸だよん!スゥーハァーってね!」 『う、うん分かった!』 そうして、大きく息を吸うと菊丸くんが近くにいるせいか、甘い香りが肺いっぱいに広がる。ひとつ深呼吸をすれば菊丸くんはさっきよりも笑顔になってくれた。ああ、やっぱり好き…涙を拭いてそう思った。言わなきゃ、おめでとうって。勇気をだすって今日決めたんだから。 『菊丸くん』 「うん」 『お、お誕生日!おおおめでとう!』 「……………」 『き、菊丸くん…?』 「っぷ、ははははは!もうっ、オモシロすぎる!明らかに“お”が多かったよ〜!はははっ」 『うっ、』 「でも、ありがとう!」 『う、ううん!』 「これ…貰っていいの?」 不細工ビスケットはわたしの手から菊丸くんの手の中へ。受け取ってもらえた…わたしが作った不細工ビスケット。『もちろんだよ!』と言えば菊丸くんはいつものように「やっほ〜い!」と飛び跳ねて喜んでくれた。そしてオレンジ色のリボンがするりと外され、不細工ビスケットは一枚、菊丸くんの口の中へと入って行った。 『え…あ、』 「んうう!!すっごく美味しい!天才じゃん!お菓子作りの才能あるにゃ!」 『そ、そんな…。でも、ありがとう…!』 「…どーいたしまして!あ、じゃあ俺部活だから行くねん!ビスケット!ありがとう!今日も頑張れるよ〜」 『っあ、頑張ってねっ』 手を振って走って行く菊丸くんに手を振り返す。菊丸くんの姿が遠くなってきた時だった、そんな距離を感じさせないような大声で菊丸くんはわたしに向かって叫ぶ。 「今日言われた“おめでとう”の中で一番嬉しかったにゃあーっ!本当にありがとーうっ!」 それを聞いて、わたしの頬っぺたに自然と涙が流れた。嬉しいからとか、そんな気持ちもあるからかもしれないけれど、そんなことよりも、今のわたしは幸せなのだ。心が幸せで満ち溢れていて、これ以上心の中に納めきれなかった、きっとそんな表現が一番相応しいはず。 『わたしの方こそ…ありがとう、英二くん……』 もう姿は見えなくなった彼に向かってわたしは反対に小さく呟いた。 ビスケット一枚、 きみの心臓と交換
素敵な素材さま** 素敵なお題さま**etoile ひゃわ様のところの『ねこいろ@菊丸英二誕生日企画』に提出させて頂きました!初書き菊丸くん!てか私青学を初めて書きました。菊丸くんの口調難しい…でも愛は込めました! 菊丸くんお誕生日おめでとう!
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