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「…公孫サン殿、趙子龍、参りました」
『早く入れ』
戸の前で名を言えば、剰りに呆気ない一言。
静かに戸を開け中に入ると、やはり軍議やその類の伝達等の雰囲気では無かった。
「…今日は、どういった用件でしょうか?」
分かってはいたが、敢えて聞く。
勿論、それが確信に変わってしまう事は解りきっていたが。
公孫サンは掛けていた椅子から腰を上げると、趙雲に一歩二歩と歩み寄った。
「壁に両掌を着き、腰を此方に預けろ」
「…っ、…」
やはりまたか、趙雲は唇を噛み、俯く。
それに気付いた公孫サンは大仰に眉根に皺を寄せ、如何にも不機嫌そうな声で趙雲に問うた。
「…どうした趙雲、主君の命令が聞けないのか?」
身長こそ趙雲よりも若干低いが、公孫サンの威圧感はそんな些細な差など打ち消す程だった。
それでも抗わなくては、と趙雲は首を振り、公孫サンの要求を拒んだ。
「明日の戦、…馬に、乗れなくなっては…」
「…全く、面倒な奴だ」
公孫サンは言いなりにならない趙雲に苛立ち、そして荒んだ語気のままに続けた。
「ならば、それ以外の方法もあるだろう?」
「…それ、以外…?」
戸惑いの色を隠せない様相の趙雲に、公孫サンは厭らしい笑みを浮かべた。
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