大切な、宝物






はは、は…
痛覚が働かねェや。
霞んでぼやける視界は
真っ赤な血で塗り潰されてて
暫くして、その血が全部俺の物だって
その事にやっと気付いた。

ゆっくり胸元のペンダントに手を伸ばす。
…恋人のくれた、大切な宝物。
それすらもぬるりとした血で汚れていて
輝く銀色のプレートには何も映らなかった。


少し昔、2人で話してた。
死ぬときは独りで死ぬな、と。
例えどちらかが倒れても、傍に居る、と。

でも、今、俺は独りで。
苦しくて、悲しくて、寂しい。
スモーカー……どこに居る…?



「エース…?エースか?!」
沈みゆく意識を引き揚げる声。
ああ…この声は…
「……遅、ェよ…」
口を開くと糊状の血が溢れ、
ふるふると口の端を伝い落ちる。

それを拭い、スモーカーは泣きそうな顔になる。
「すまねぇ、間に合わなかった…!」
力を振り絞り、スモーカーの頬に触れる。
でも、血で濡れた掌はずるりと滑り
頬に赤い痕を残すだけで。
「、なぁスモーカー…」
「エース…何だ…?」
「どう、しよう、俺…痛くねェんだ…
感、じねェ…痛みを、感じねェんた…!」
「……畜生…っ」

スモーカーはもう分かってんだ、きっと。
今の俺は、もう危ない状態なんだ。
何処かしら、感覚が無くなるのは、…

「…なァ、スモーカー…お願い、が、あるんだ…?」
「何でも言ってみろ!…絶対叶えてやる…」
ありがとう、スモーカー…
…でも…欲張んねェから、1つだけ…
「…キス、して……」
「……ああ…」

小さく返事をして、俺に唇を重ねる。
普段よりも優しくて、濃厚なキス。
口を離せば、唾液の代わりに
真っ赤な血が溢れ出て。

「はは、…何でだろ、スモ、カ…の…
…味、…しねェ、や…」
「…エース…、…」
俺の、鉄臭い血の味だけ。
折角なのに…意志が揺らいだだけ。

「なぁ…俺…まだ、生きた…い、」
「……!」
「スモ、…カ…の隣、に…居たい……」

もう、何も見えない。
もう、何も感じない。
…スモーカーの温もりさえも。

あぁ、死ぬって、こういう事なのか―…



「エース……」
目を閉じ、もう動かない俺を
スモーカーはいつまでも抱き締めてくれた。


ごめんね、スモーカー。
ありがとう、…バイバイ。



end



+++



戦争とか無差別破壊に巻き込まれた
恋人達をイメージしたのですが
…暗い!そして縁起悪い!!
あわわなんだかすみません…




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