d'amour pour 4 | ナノ






厨房に、俺と佐藤君の呼吸する音だけがやけに響いている。
そんな中、遠くから何人もの足音が聞こえて、思わず身を硬くした。

「さとーさん!」
「種島…」

もうすでに帰り支度を終えた種島さんたちがいつまでっても帰ってこない俺たちを心配してか身に来てくれたみたいだ。

「おい、もう閉めるぞ」
「…悪い、もう少しやることがあるから残る」
「!?」

佐藤君の思いがけない言葉に驚いて顔を上げた。

「従業員残して店長が帰れるわけないだろう」
「いいから、鍵貸せ」

しぶしぶながら佐藤君に鍵を渡す杏子さんをぼんやりと見つめていると、目の前に種島さんが。

「相馬さんどうしたの?顔色悪いよ?」
「え、そうかな?心配してくれてありがとう」
「いえいえ!それじゃあまた明日!」
「うん、また明日」

そしてそのまま何も知らずに杏子さんたちは帰っていってしまった。
本格的に、店内には俺と佐藤君の二人きりになってしまった。
重苦しい空気が再び襲ってくる。
佐藤君は何も言わないまま、きれいな金髪をぐしゃぐしゃとかき乱していた。
こんな状況でも佐藤君の一挙一動にときめきを隠せない自分がいらだたしい。
その手に触れたいと思う、はしたない自分。


「お前、何言ってるか自分でわかってるのか?」



静まりかえっていた空気を切り裂く佐藤君の鋭い視線と声が俺を射抜く。

「わ、かってるよ……これしか、これしか考えつかなかったんだ!」

普段はあれだけ他人の恋路に口を出せても、いざ自分の番になると戸惑ってしまう。

「…触れたかったんだ…」
「?」
「佐藤君に、触れたかったんだ。
手に、
髪に、
頬に、
唇に、
体に、
…………………心に」
「……………」
「わかってる。佐藤君の心は佐藤君のもので、チーフのことを好きだってこともわかってる!
でもほしかったんだ!佐藤君が!!」
「相馬、俺は………」
「何も言わないで!!………お願いだよ、一回でいいんだ。一回だけ、一晩だけ俺に佐藤君を頂戴?チーフだと思って抱いていいからさ…」
「!? そんなことできるわけないだろ!」
「………佐藤君は優しいね」

佐藤君の優しさを知るたびに、どんどん自分が汚い人間だと思い知らされる。
きっと、彼はそんなことないってくれるだろうけど、違うなんて自分が一番よくわかっている。
彼は知らない。
俺がどれだけ汚れてしまっているか。
身体的なものじゃない、
心の、深いところが。

「佐藤君……」
「!?」

今まで保っていた、調理台越しの距離を自分から縮める。
正面からみた佐藤君は相変わらず無表情に近かった。
後30センチ、
20センチ、
10センチ、
5、


ゼロ。


「そ、うま…」
「佐藤君……好きだよ、好きなんだ……ごめん、ごめんね…」


抱きついた佐藤君からは

油のにおいと、
汗のにおい、
かすかなタバコのにおい、

それと、


チーフと同じにおいがした。







―――――――
何時間も一緒にいて(一方的に)話してればシャンプーなり、何なりのにおいも移るよねって話。
……………移らないか!飲食店だから匂い系厳禁かな…ふ、フィーリングでお願いします!
しかし話が進まない………