「お前、それどういう…」
「…………」
佐藤君がまっすぐ俺を見つめてくる。
その視線に誘導されるように、今まで隠し通してきた本音が次々にあふれてしまう。
もう、後戻りはできない。
「…そのまんまな意味だよ…俺だったらそんなに佐藤君のこと、悲しませたりしない」
「もう、佐藤君が悲しんだり、悩んだりしている姿を見るのはいやなんだ」
「何でチーフなの?かなわないって最初からわかっているのに」
「…………」
「俺じゃだめなの?俺じゃ佐藤君の中にいられないの?」
「相馬………」
「俺は、俺はこんなにも…………
佐藤君のことが好きなのに 」
張り詰めたような静寂。
佐藤君の視線にたえきれず、目線を厨房の床に落とした。
ドクドクと心臓がうるさい。
このまま、永遠かとも思えるような長い静寂。
「(ほんと、佐藤君は優しいな……)」
きっと今、彼は俺のはた迷惑な思いにどう答えればいいか、
どう答えれば一番俺が傷つかないか考えてくれているはずだ。
答えは最初から決まっているし、そんなこといまさら聞きたくもなかった。
「相馬、俺は……」
「いい!答えは聞きたくないし、わかってる………でもせめて……」
俺は、なんてずるい人間なんだろう。
今から俺は、人として最低なことを言おうと思う。
佐藤君が受け入れてくれるなんて思ってはいない。
これは、一種の賭けみたいなものだ。
同情でも、なんでもいい。
チーフの手に渡る前に。
「抱いてよ。
佐藤君の心はチーフにあげる。
せめて、せめて体くらいは俺にちょうだい?」
体の奥の奥。
どこか深いところで何かが壊れた音がした。