d’amour pour 1 | ナノ


※相馬さんがやや病み気味※





d'amour pour 1




北の大地に存在するファミリーレストラン「ワグナリア」
今日も一日(暇な)営業を終え、煌々とともっていた看板の電気が落とされる。
しん、と静まり返った店内では遅番のスタッフ何人かが閉店後の作業に追われている。
それはここ、厨房も同じで…
俺は同じ遅番の佐藤君とともに片付けと、明日の準備に追われていた。

「佐藤君、こっちの片付け終わったよ」
「ん、ああ……」

ステンレスの調理台を挟んで俺の向かい側に立つ佐藤君の手元の動きが珍しく遅い。
どこかぼんやりとした視線は疲労の色が濃かった。

「(ああ、そうか……)」

きっと、いま佐藤君の頭の中はチーフのことでいっぱいなんだろう。
比較的暇に近かったせいか、今日も今日とて同じような店長のノロケを延々と聞かされいる姿を何回も見かけた。
いまどき中学生だってしないような四年越しの片思い。
金髪、無愛想な外見からは想像出来ない様な純情さと、誠実さ。
それがこの、佐藤潤という男なのだ。

「(早く告白、してしまえばいいのに……)」

彼と働くようになったのは二年前。この二年間で嫌というほど片思いの片鱗を見せつけられた。
痛すぎる純情と、
もはや罪な鈍感さ。
からかい甲斐があるけれど、そんなことは俺にはできない。
自分に彼と同じような純情さのかけらがあったことに驚いた。
そう、
俺、相馬博臣は、
佐藤潤に好意を抱いている。
彼がチーフを思うような純粋さのかけらもないような、
ひどくどろどろとした汚い思い。


あの声で名前を呼ばれたらどんなに心地いいのだろう。

染めているとは思えないさらりとした髪に触れてみたい。

佐藤君の大きな手で触れてほしい。

その唇で、

瞳で、

体で、


彼と交わったら、どんなに気持ちいいのだろう。



――――そんなこと、告げられるはずもなく。
今日も、俺は佐藤君の隣で笑い続ける。