練習のない休日、いつもなら家か河川敷で過ごしているが今日は携帯ショップに来ていた。今まで携帯の必要性などあまり感じてなかったのだが吹雪たちに押され、緑川までもが買ったというものだから「まあ、あった方が便利だろ」と思い買いに来た。でもどの携帯がいいのか良く分からず最終的には店員さんに流されるがまま最新機種の携帯を購入するハメになった。
はあ、とため息をつきつつありがとうございましたーと店員さんの営業スマイルに見送られ、携帯を弄ってみるがよく分からない。まあ明日吹雪たちとアドレスの交換するだろうから赤外線ぐらいは覚えておかないとなと赤外線機能を探すが見当たらない。
今時の携帯はよく分かんないなと年寄り臭いことを思いつつ目をしかめているとコンッと足で何かを蹴ってしまった。石か、それともゴミかと蹴ってしまったものを目で追うとそれは光の反射でキラッと光った。
「携帯?」
それはサッカーボールのストラップが付いたオレンジ色の携帯だった。誰かが落としたのだろうかと交番に届けるか悩んだ結果、悪いとは思ったが携帯を開いた。待ち受けは俺と同い年くらいのユニフォーム姿の少年たち。なんだ落とし主は中学生かと思い、だったら自宅の電話番号くらい登録してないかなと慣れない手つきでアドレス帳を開くと、サ行に佐久間、三国、と続き自宅とあった。
携帯を拾って…と頭の中で話すことをシュミレーションしつつ通話ボタンを押すとプルルル…と自宅の電話より少し音の高い呼び出し音が聞こえる。喉が乾き心臓がどきどきと高鳴りうわーなんか緊張すると思いながら頭の中でシュミレーションを繰り返していると『もしもし!』と突然声が飛んでき、肩がびくっ!と震えた。受話器を耳にぴったしとくっ付けていたため驚きもうすぐで携帯を落とすところだった。
はあ…と深呼吸をして「も、もしもし…」と緊張で震える声で答えると『この番号って俺の携帯だよな?!』と焦る声が返ってきた。えと、この携帯を拾って…とちぐはぐに言葉を紡ぎながら説明すると『そっかー、拾ってくれてありがとな!』と明るい声と共に『じゃあ取りに行くからそこに居てくれるか?』と申し訳なさそうな声が聞こえた。
感情が声に出やすい子だなと思いつつ「大丈夫ですよ」と答えるとまた「ありがとう!」と明るい声が返ってきた。
それからサッカー好きな明るい子なんだなと頬を緩めつつ自分の携帯を弄っているとようやく赤外線機能を見つけた。と同時に「あの」と声をかけられた。
その声にふと顔を上げるとその声は電話越しに聞いた声だったが顔は声よりも子供で身体は声よりも大人だった。
童顔な人だなと思うと同時に中学生じゃなかった!と1人驚いているとその人は「その携帯」と隣に置いている携帯を指差した。あっえと、とわたわたしながらさっと差し出すと「拾ってくれてありがとな!」とその人は笑って受け取った。明るい声と笑顔は想像通りだったなと思いつい笑ってしまうと「えっなんか俺変なこといった?」とその人はわたわたする。
「す、すみません。貴方の笑顔が想像通りというか素敵で…」
なんというかと照れながら言葉を紡ぐとその人は目をぱちくりさせながら「えっあっ」と突然慌てた。変なこといっちゃったかなと此方も慌てながら立ち上がるとその人はびくっと後ろに引き下がった。
うわーやっぱ変なこといっちゃったんだと思い此処は手っ取り早く帰ろうと逃げるように「それじゃ」というと「あ、アドレス!」と呼び止められた。アドレス?と振り向くとその人は真っ赤な顔で「こ、交換しませんか?」と言葉を繋げた。
「そ、その今日のお礼をまたしたいっていうかなんていうか…!」
「いいですよ」
「え…?」
別に断る理由もなくよく分からないけれど律義な人なんだなと思いさっき覚えたばかりの赤外線を開くとその人は太陽のような笑顔を浮かべた。
今度こそ「それじゃ」と別れ円堂さんは駅へ俺は帰路へとついたのだが、その途中で名前聞くの忘れていたことに気がついた。
彼方にはアドレスを送ったから俺の名前はわかると思うけど一応自己紹介してればよかったなと思い、はあ…とため息をつくとpipipiと電子音が聞こえた。それに震えるポケット。俺の携帯か、と時間がかかってから気づき携帯を開くと『新着メール1件』。慣れない手つきでカチッと真ん中のボタンを押すと差出人の所に名前が明記してあった。
「円堂守さんか…」
俺の初めての携帯の初めての登録とメールは太陽の笑顔を浮かべる人だった。