ハッピーターン
お昼時。
中庭の自動販売機に向かう途中で、財布を忘れたことに気がつく。
取りに戻るべきか、飲み物を諦めるべきかで立ち往生していると、後ろから声をかけられた。
「あれ、狛枝クン。どうしたの?」
つい先日出会ったばかりの苗木クンだ。
同じ幸運同士だと言うこともあって、比較的友好的な関係を維持している。
とりあえず一緒に自動販売機に向かいながら、忘れてしまった財布の事を話そうかと思った瞬間。
風に流されてきたのか一万円札が飛んできて、ふわりと手に収まった。
「ーーー…」
…幸運だと思ってはいけない。
それは不幸の始まりでもあるのだ。
たかが1万円だと侮るなかれ、死は身近で、すぐに牙を向いてくる。
「っ!」
「わわっ」
訪れるだろう不運に身構えていると。
一瞬、何かが隣にいる苗木クンのいる位置に降ってきたと同時に、彼が視界から消え、予想通り"幸運の代償"が起きたのだと分かった。
自分の幸運は代償を必要とする欠陥品で。
結果はいつも一緒だ。
死体なんてもう見飽きてる。
惨状を確認するために隣を見れば、彼はむくりと立ち上がるところだ。
…………あれ?
改めて後方やや下を確認すると、極小さなクレータが1つ。
隕石…だ。
…………あれっ?
「だいじょう、ぶ?」
「いてて…つまづいちゃった、…はずかしぃ」
少し赤くなって、てへへとか誤魔化す姿が可愛く見える。
いやいや、それどころじゃないんだ…。
キミは今、死と隣り合わせだったんだよ?
あまりの想定外の展開に頭がついていけず、意味もなく彼の事が心配になった。
「な、苗木クン…」
「あ、ね!ね!狛枝クン!500円玉落ちてた!」
コケた時に見つけたんだ、やったね!
500円程度に満面の笑みを浮かべて喜ぶ姿が、死ぬ程可愛い。
らしくない動揺もその笑顔の前に吹っ飛んだ。
ああぁ…これが超高校生級の幸運ってこと?
ゲットした500円を片手にご機嫌で自動販売機へ向かう後頭部が可愛く見えて仕方が無い。
高鳴る鼓動に自問自答しても答えは1つで。
そうだよね、それしかないよね。
恋をしました!
※純天然モノの幸運の破壊力
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