染される世界


「あたしも自分の事、キチだと思うけど、あんたも大概だよね」
「一緒にしないでくれるかな?ボクは希望、キミは絶望。全くもって土俵が違うんだよ」
「希望希望希望きぼうきぼうキボウ!あんたといるとノイローゼになりそう!」
「じゃあ消えれば?」
「ああ、もう!チョームカつく!!殺してやりたい!」
「あはは、死なないよ幸運だからね!」

殺したいと言う江ノ島盾子の言葉に、ピクリと絶望の片割れが攻撃体制に入ったのが見えたが、全く気にしない。
自分が望まない限り死と言うステータスは存在しない。
利がないと言う事は幸運とは反するからだ。
これは彼女達に証明済みの事でもある。

「うざぁぁ…何でこんなのと一緒にいなきゃいけないわけ!?その事がもう絶望だわ!こんな絶望も余す事なくいただいちゃうけどね!ああ、マジ幸運うざい!!」

頭を掻き毟る姿の方が見ててうっとおしい。
言葉には出さないが片割れには伝わったのか、再び攻撃体制に入ったのが見えた。
…殺せるものなら殺してみればいい。

ふと、江ノ島盾子が固まった。
そういえば…と呟く。

「うちのクラスにも"幸運"がいた」

ランランと輝く瞳。
彼女の中の希望が垣間見得た気がして、一瞬目を奪われた。

「あの"幸運"、ぶっ潰したらあんたへの見せしめにでもなるかしら?あんたの欠陥だらけの幸運とは違った本物の"幸運"」
「…超高校級の幸運ってことなら、ボクと比べること自体がおこがましい。ボクすら殺せないキミには到底無理だよ!」
「ふん!どうかしら!"幸運"が絶望に押しつぶされる瞬間!あんたの存在は絶望には勝てないってことの証明にもなる!」

そう!そうしよう!なんて楽しいの!とぶるりと身体を震わせる絶望を忌々しく見つめる。
絶望なんて希望の前に消えて無くなればいいのに。

…そうして決行した彼女は、希望の前に敗北した。




信者は遺体に群がる。
嫌いな彼女の残った腕を手に取って、初めて触れる彼女の冷たさにゾッとした。

本当に消えてしまった。
その事自体が黒いシミの様に心に小さな絶望を落とす。
彼女が絶望の末に見つけた希望、苗木誠クン。
ボクも絶望を取り込んだら、あんな強い希望に出会えるのだろうか。

もしそうして希望に出会えたなら。
心に根付く彼女を消せる気がして。
本当に大嫌いな彼女を殺せる気がして。


ーーーその時、初めて絶望を受け入れた。






※無意識にお互いを意識していた2人。


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