ハッピーターン→おそろい→心理分析報告
という感じでなんとなく続いてます。



ER:0


(…ちっちゃいな)

うららかな昼下がり。
約20pくらい視線の下。
俺は狛枝の話題の中心となる例の幸運少年にばったり出くわした。

身長さのせいか、丸い頭部と跳ね気味の髪がぴょこぴょこ動いて見えてなんだか可愛らしい。
新入生独特の初々しさと微笑ましさが、なおそう思わせた。


最近狛枝から聞くこの"幸運"の事といえば。
やれ、話しかけてみただの。
やれ、ご飯を一緒に食べただの。
やれ、偶然を装って2人で下校してみただの。
相変わらず話す内容はいたって普通の恋話なのに態度と言動と考え方がそれを裏切って狂気じみていた。

(そういえば最近はだいぶ慣れてきたな…)

…いやいや、慣れるな。
自分が少し悲しくなる。



「苗木君、大丈夫?」
「あ、うん」

少年とその隣にいた色素の薄い少女の声で我に返って。
改めて見つめ直すが普通に素直そうで良い子そうだ。
…こんな子が狛枝の毒牙にかかるのか。
救ってやりたい気持ちはあるものの、あいつの暴走はあの"幸運"も合間って誰にも止められない。


「…悪い」
「いえ!こちらこそすみませんでした」
「いや、俺も不注意だった」

ほら。と、鉢合わせした時に落としたノートを拾って渡せば「ありがとうございます、先輩!」と、はにかむ様な笑みを向けられて。
純粋な笑顔。普段慣れていない類いの笑顔に、ぶわっと頬が熱くなった。
先輩、という響きもやけにくすぐったく感じる。

……うぁ、なんか反則だ。
物凄く居た堪れない。



だが、そんな感情も次の瞬間消え去った。

「何してるのかな、日向クン」

呼ばれた声の冷たさゾッとする。
視線を上げれば幸運少年の背後に狛枝がいて。
笑顔なのに瞳の奥が全く笑ってない。
深く暗く、完全に敵を捉えた瞳だ。

(い、いつからそこに…つか、怖ェェ!!)
声なき声が引き攣る。

「はは、楽しそうだね」
「わ!狛枝クン!?」
「苗木クン、こんなところで会えるなんてラッキーだな!」

幸運万歳!と叫ぶ狛枝は楽しそうだが、俺に向ける言葉と視線が棘だらけだ。

「ね、ね、日向クンは何をそんなに赤くなってたのかな?」
「え?あ、違うぞ!」
「何が?」
「誤解だ!あくまで純粋なのものだ!」
「…純粋?何が?」

深くなる冷笑。
非常まずい!何か大きな勘違いをしている!

まるで浮気現場を見られた夫のような言葉しかでない事に肝が凍った。
だって、ここで弁解しないと確実に俺の人生に終止符が打たれる気がする。

そもそも俺はノーマルだ!いらぬ憶測に寿命を縮めたくない。
いや、よく考えて見れば、そもそもお前の、その悪意と敵意に満ちた笑顔が悪いんじゃないか!?
いつも見てるのがそんなのだから純粋なモノに耐性が無くなるんだ。
責任転嫁?どうとでも言え。
それくらい今の狛枝は怖いんだ…!

救いを求めて目を逸らした先にいる後輩女子を見れば、私は中立です。と言わんばかりに終始傍観体制。

原因となった後輩を見れば、狛枝が何故かその頭を撫で撫でしている。
俺が先日、理不尽にも3cm刈られることになった原因である、頭の触覚の抵抗を堪能している手つきだ。
撫でられている本人も固まって微動だにせず、そこはかとなく狛枝の撫でる手つきが見てていやらしい。


ああ、後輩2人は頼りにならない。
挙げ句の果てに、苗木に視線を向けた事で狛枝の空気がさらにピリッとして。

ーーーなんて空間だ。
救いの無さに絶望しそうになる。


狛枝が突然、あはは、と笑顔を見せると。

「日向クン、向こう行こうか。ちょっと話ししたいこともあるし」
「嫌だ、俺は話したいことなんてない」
「うるさいよ」

精一杯の主張も一言で却下された。
冷や汗と共に抵抗を試みるが、無言の圧力に精神という精神が押しつ潰されそうになって強制的に連行させられた。

…いつもならば、こいつの偶然起きる幸運の代償をなんとか才能で打ち消してきたけれど。
こいつの悪意込みの"代償"に立ち向かわなきゃいけないなんて俺の命も風前の灯火だ。

(希望とか言われているものの、今回ばかりは死ぬかもな…)


最近の人生を振り返って。
希望のくせに不幸ってどういう事だよ。副作用か?
と、かなり悲しい気持ちになった。

せめて命だけは助かりますように。
自分自身にエールを送ってやる。

俺、ガンバレ…!





***

「……仲良いよね。この前も追いかけっこしてたし…」

去って行く先輩2人を見送って。
撫でられた頭をいそいそと直しながら、苗木君が呟いた。

(あれの何処が仲が良いのかしら)

完全に蛇と睨まれた蛙だったじゃないの。
しかも、あのカムクライズルを巻き込んでの恋模様。
新たな展開や登場人物を期待していたけれど、超大物過ぎる。

「苗木君も罪な人ね」

チラリと苗木君を盗み見ると、まだ頭を直していて表情は見えない。
けれど。
何となくその行動が照れ隠しのように見えて。

(ーーー…あら)

今、カムクライズルを救う最強のカードを手に入れた気がする。
いつもなら真相を確認するところだけれど。
今回は見て見ぬ振りをしておくことにした。


ひとまずは。
あの火の粉がこちらまで飛び火しませんように。
メラメラと飛び火した末に連行された彼を見てそう願った。




※ER(evasion rate)…回避率ステータス


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