お手紙ついた
ゴッドエデンから帰還して間もなく、木枯らし荘の一室に手紙が届いた。
管理人である秋からその手紙を受け取った松風天馬は、不思議そうな顔をしてそれを受け取った。封筒には松風天馬という名前しか書いていなかったからだ。しかも、この家の住所を知っている者は身内位しか居ない。学校を通じて知り合った雷門中サッカー部のメンバーや友達には携帯の番号とアドレスを教えてあるから、まず手紙を送ってこようとする者はいないであろう。しかも、身内であるなら天馬の名前を書くだろうし、第一住所もなければ切手も貼っていないこの封筒がどうして届いたのだろう。もしかしたら、この手紙は届いたのではなくて、サッカー部の誰かが置いていったものではないか?
天馬はありがとう、と秋に告げ、自室へとその足を向けた。そして、その封筒に唯一書かれた松風天馬の文字を凝視した。丁寧に書かれたその文字は、見たことのない文字だ。部内で一番悪戯をしそうな狩屋はこんなに綺麗な字ではないのでまず違うだろう。しかも、インクの色もあまり見かけない不思議な色をしている。深い緑のようなそのインクをなぞりながら、自室のドアを開けた。
自室でくつろいでいた愛犬サスケが天馬の方をちらりと見て、またその頭を床に着けた。天馬は持っていた鞄を床の上に置き、その身をベッドに預けた。封筒を光に透かせてみると、中には紙切れが1枚入っているだけのようだ。とりあえず、中に変なものが入っていないことに安心した天馬は、封筒の上部分を慎重に破っていった。予想通りの紙切れ1枚を恐る恐る開いてみると、封筒にあった丁寧な文字でこう書いてあった。
『やあ天馬、久しぶりだね。シュウだよ。また君に会いたくなったから近々遊びに行くね。』
「シュウ!?」
中に書かれていた意外な名前に驚いた天馬は、勢いよくその身を起こした。手紙の真ん中の辺りに書かれた文字には確かにシュウと書いてある。シュウと言えば、フィフスセクターに半強制的に連れられたゴッドエデンで出会った少年だ。今の時代にしては不可思議な格好をした少年であったが、天馬はシュウに気に入られたのだ。自分達が強くなるための特訓の手助けをしてくれたりと、天馬もシュウのことを大切に思っていた。
しかし、ゴッドエデンから帰還してすぐ、シュウがどこかに行ってしまったという話を剣城から聞いたのだ。(その剣城は、いつの間にかアドレスが知られていた白竜からのメールで知ったらしい)
「シュウ、どこかに行っちゃったんじゃなかったのかな…」
会いに来てくれるというなら、これほど嬉しいことはない。しかし、天馬の中に疑問は残る。まず、どうして住所がないのにこの手紙が届いたのか。シュウに住所は一切話していない。雷門中学校に通っていることだけを頼りに探したってあのマンモス校から探すのは一筋縄ではいかないはずだ。そして、失踪したはずのシュウがどうして天馬の所に来るのか。剣城からの話によると、シュウはチームゼロとして試合を終えたその日に姿が見えなくなったそうだ。エンシャントダークのチームメイトはおろか、白竜さえもその行方が分からなかったのに、どうして。
元々、シュウは素性も全く分からず、いつからこのゴッドエデンにいたのかもわからないそうだ。エンシャントダークのカイという少年も、言葉を濁すばかりでハッキリとしたことは分からない。天馬自身も、ウチはどこか聞いたのに言葉を濁されたり、食事に誘っても断られた体験を思い出していた。
考えても埒が明かないことを考えてもどうしようもない。なんとかなるさ、と天馬が口癖にしている言葉を呟いた。実際にシュウが会いに来てくれることを信じるだけなのだ。天馬はもう一度自分のベッドに寝転がりながら、その手紙を見つめた。
つづく