※鬼道さんが女々しいです
※帝国(真帝国)について色々捏造気味







暗闇の中に一筋の光が見える。その光は明るい色とも暗い色ともとれない、微妙な色合いをしていた。
光を辿って歩いていくと、その先はグラウンドだった。しかし、見慣れた雷門中のものではない。久しぶりに見た帝国学園のものだった。
グラウンドには、キーパーに源田、フォワードには佐久間がいて、辺見や寺門などの他の元チームメイトもいた。
声を掛けようとしたが、その声は大きな悲鳴によってかき消された。

一瞬にして場面は変わり、忌まわしい外見のグラウンドが見えた。これは、真帝国学園の…。
サッカーコートのゴール前には佐久間がいた。足を抱えて座り込む彼の姿を見て、先程の悲鳴は佐久間のものだと理解した。
急いで逆側のゴールに顔を向けると、源田が倒れ込んでいた。両手で自分を支えることも出来ず、ぐったり寝そべったままだ。
禁断の技の練習なのだろうか、視界には不動が入って、何やら文句を言っている様子だ。かつて帝国学園に居たときには、俺が制して来たが、真帝国…影山と不動の下、その禁断の技は使われたのだ。
体中の筋肉を酷使する、人体を破壊し得ない技…そんな危険な技を、大切なチームメイトに使わせる訳にはいかなかった。

だがしかし、大切なチームメイトは技の反動で倒れ、傷だらけになっている。
俺は、自分の不甲斐なさに目をつぶった。元ではあるが帝国学園のキャプテンだったのだ。しかも、俺を慕い、尊敬してくれていた大事なチームメイト…。
そんな彼らを、俺はどうして止めることが出来なかったのか。

佐久間は、俺が抜けた帝国学園でも良くやっていると聞いていた。俺を追い越す為に、日々努力を惜しまず練習に励んでいた。
そんな彼を、どうして影山の、不動の呪縛から逃すことが出来なかったのか。不甲斐ない俺のせいで、命の危険に晒されていると考えるだけで、自分はあいつの為に何も出来なかったという事実を改めて知らされる。

源田も、帝国学園のゴールを守り、後輩見も良く、時たま暴走する佐久間を制止させたりと、本当にいい奴だった。
源王と呼ばれ、高いプライド持つ彼が、どうして真帝国学園に入ったのか、不思議でならなかった。
彼もまた、無理やり入らされたのだろう。しかし、心のどこかには影山に教え込まれた"勝利"の二文字が残っていたのかもしれない。


「ぐっ、ああああああぁぁあ!!」

先程よりさらに大きな悲鳴が聞こえ、意識は嫌でもそちらに戻った。

不動の後ろでは、二回目の技を使ったのだろう佐久間が倒れ込み、全身を抱え込んでいた。
源田も、反動が足にまで来て、完全に倒れたまま動かなくなっていた。
佐久間を、源田を、助けなくては。そう思っても声も出ない、体も動かない。
どれだけ叫ぼうとも、声にならない。 こんな拷問のような練習を、黙って見ていろと言うのか!
思い切り息を吸う。喉が潰れるんじゃないかと言うほど声にならないだろう声を出した。



「佐久間っ!!!」
「大丈夫ですか鬼道さん!」

声が出た、と思ったら目の前に佐久間の顔があった。驚いて当たりを見回すと、そこはFFIの為に寝泊まりしている自室だった。

「鬼道さん…かなりうなされてたみたいですけど…」
「いや…大丈夫だ…」

あれは、夢だったらしい。夢にしては妙にリアルだった。 俺は、未だにあの事を引きずっているというのか…?
ふと、こちらを覗き込んでいた佐久間と目があった。心配そうに覗く佐久間を心配させたくなくて、大丈夫だという意味を込めて笑った。 はずだった。

「き、鬼道さん…?なんで、泣いてるん、です?」
「…な、泣いてなどいない」
「じゃあなんなんですか?」

これ、といって頬を撫でられる。寝ている間にゴーグルを外されたらしい(多分佐久間だが)。涙が流れて頬が濡れる。
佐久間の顔が近付いて、目を見つめられる。頬にあった親指で目尻の涙を拭われる。
つつ、と流れてくる涙と一緒に頬を舐められ、目尻にあった涙も舐めとられた。


「夢見でも、悪かったんですか?」

真っ赤な目が更に真っ赤ですよ。と佐久間は告げた。
あんなことがあったのに、こいつは笑っている。 俺はこんなに引きずっているのに。


「佐久間」
「なんですか?」
「…今から話すのは独り言だ」
「…はい」
「夢を見た。俺がまだ帝国に居るときの、皆とサッカーをしている夢。そして、お前と源田が、真帝国にいる夢」
「……」
「俺はお前たちを止めることが出来なかった。真帝国に行くことも、そして俺たちとの試合であの禁断の技を使うことも」

「お前があの試合で、何を思ったかは知らないが、俺はそのことを負い目に思っているのかもしれない。俺のせいで、佐久間や源田に辛く痛い思いをさせてしまったこと、お前たちがこうならざるを得なかった原因を作ってしまったこと、自分だけ影山の手から逃れたこと。自分の不甲斐なさに。」

悔しくて、涙が出た。
そこまで言おうとして、声を遮られた。目の前には銀の髪の毛があり、長い睫毛が見えた。
キスをされたということに気付いたのは、佐久間の顔が離れていってからだった。


「…鬼道さん」
「…なんだ」
「俺は確かに真帝国学園に入りました。でもそれは鬼道さんのせいなんかじゃなくて、自分の心が弱かったんです。…心の中で、力が欲しいと思った。鬼道さんと並べる位の力が。結果的に入ってしまったのは自分の責任です。あの技を使うことになったのも、力が欲しかった自分がどこかにいたんです」
「さ、くま…」
「俺は、鬼道さんだけでも影山の呪縛から逃れて欲しかった。だから、鬼道さんが負い目に思うことなんて何一つないんです」

佐久間の顔は真剣だった。その内ニコッと笑い、俺の頭を抱きかかえた。

「鬼道さんは、俺が守りますから」









20100803
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