※2期ヒロト
※暴力表現あり



優しさに溺れたとき



腹部に強い痛みを感じて、思わず咳き込んだ。さすが、サッカーをやっているだけあってキック力は並大抵のものではない。このままだと骨が折れてしまいそうだ、と他人事のように考えた。
その後、髪の毛を掴まれてぐいっと持ち上げられる。髪の毛が自分の体重に耐えきれず抜けていく感覚がした。
彼はそのまま、宙に浮いた顔を空いている手でひっぱたいた。パシンと乾いた音が響く。
衝撃で髪を掴んでいた手が離れる。彼の手に僕の真っ赤な髪の毛が絡んでいて、美しく感じた。そして同時に羨ましく感じた。僕も、本当は頭をその固い手で優しく撫でてもらいたい。抱きしめてもらいたい。
でも、そんなことは絶対無理。だって、この行為こそが不器用な彼の愛情表現なんだから。彼の精一杯の愛情を真摯に受け止める。それで僕が傷付いたのなら本望じゃないか。


「ヒロト」
「なんだいっ…守…」

この行為中に彼が話しかけてくるなんて珍しいことだった。なるべく彼の機嫌を損なわないように返答する。…しばらく返事は返って来なかった。
僕は最初、彼を怒らせてしまったのかと思った。でもどうやら違うらしい。長い沈黙のあと、彼はようやく口を開いた。

「…痛いか?」
「っへ…?」

痛い
この行為を続けてきた彼が、初めて口にした言葉だった。いつもなら無言で始まり無言で終わる。会話など存在しえないはずなのに。
痛い、身体はもちろん痛い。毎日のように殴られ蹴られを繰り返してきた身体はもうボロボロだ。至る所に痣が出来て、生傷も絶えない。でも、本当に痛いのは身体なんかじゃないって最近気が付いた。


「こころが、痛いよ」
「…こころ?」
「身体も痛いけど、一番痛いのは心なんだ」

こんなにも好きなのに、キスはおろか触れることすら出来ない。不器用な愛で構わないから、普通に愛して欲しい。
彼は、困惑の表情を浮かべた。それは多分、想像していた返答ではなかったからだ。

「僕は、不器用な愛でも構わない。…君が嫌がるならもうこれ以上一緒にいるなんて言わない。けど…」
「そっか…」

分かったのか分からなかったのか微妙な顔をして、そう答えた守は、そのまま部屋を後にした。

愛が欲しいなんて僕が言えることじゃないんだけど、優しくして貰えるだけでいいんだ。
みんなと一緒にいるときじゃなくて、僕と一緒にいるときに。
そんなこと言ったって守は聞く耳を持ってはくれないから(そりゃあんなことした僕たちを許してくれてるとは思わないけど)。だから僕は、守の暴力と言う名の愛を受け止めるのだ。




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円堂さんはどうしていいかわからない

20100910

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