振り向いたのは



「っはあ、はあ」

目に汗が垂れてきて、目の前のボールが霞んで見える。もう一度、強く蹴ったボールはゴールポストに当たり、そのままボールがコロコロと足元に転がってきた。
気付くと空は真っ暗で、周りには誰一人としていなくなっていた。タオルとドリンクを取りにベンチに戻ったついでに、置いてあった携帯を開くと時刻は8時を過ぎていた。
もう、戻るか。踵を返して練習場を後にしようと思った矢先、宿舎から出てくる人影を見つけた。
少し警戒しながら見ていると、見慣れたオレンジ色のバンダナが見えた。

「あっ飛鷹じゃないか!特訓か?」
「あ…そうッス…」

人懐っこい笑顔でこちらに近付いて来る。
俺を変えてくれた人の一人であるキャプテンを、俺は密かに尊敬していた。
何故イナスマジャパンに選ばれたのかもわからず、失敗する事に対して怖じ気付いていた俺に、キャプテンは気付かせてくれた。サッカーは嘘を付かないと。
その言葉が自信に繋がった。失敗を恐れていたら次になんか進めないんだと気付いたんだ。


「なんだ?難しい顔して。考え事か?」

気付くとキャプテンは目の前にいて、俺の顔を覗き込んでいた。はっとして一歩後退りする。
透き通った汚れがない目、そんな目に吸い込まれそうになった。

「…いや、なんでもないッス」

そうか?なんてコロコロ笑うキャプテンを見て、ドキッとした。なんなんだ、この気持ち。もしかして、俺はキャプテンの事が好き、なのか…?
尊敬の気持ちが好きに変わるなんて、信じられなかった。
こんな機会がなかったら絶対に会うことがなかった真逆の人だ。
確かに、キャプテンは男前だなとは思うけれど、いや、その前にキャプテンは男だ。

「どうした?なんか赤くなってないか?」
「ひっ」

熱でもあるのか?と背伸びをして俺の額に手を置くキャプテン。あ、え、としか声が出ない自分をかなり恥ずかしく思った。
こんな姿、スズメ達がみたらどう思うだろうか…。

「そう言えば、キャプテンはどうして…」
「俺?俺は少し涼みにさ。明日はまた試合だし、気を落ち着かせないと」

俺、キャプテンだから。と笑うその顔を見て、胸が苦しくなった。
キャプテンだから、皆が期待しているから、ゴールキーパーだから。沢山のプレッシャーに押しつぶされそうになっているんだ。
その小さな身体で点を守り、皆を励まし、イナスマジャパンを勝利へ導いている。
そんなキャプテンが見せた一瞬の弱さ。
すごく、守ってあげたくなった。

「あっあの、キャプテン」
「なんだ?」
「俺、キャプテンのこと好きです」
「っへ?」
「キャプテンが抱えてる悩みとか、色んな事も含めて守って行きたいんです」

言ってから、後悔した。こんなタイミングで、しかも男に告白されるなんて、思いもよらなかっただろう。自分の顔が物凄く熱くなったのが分かった。
キャプテンは、目をまん丸に開いて、パチパチと瞬きをして驚いていた。そりゃそうだ。こんな不良に、男に告白されたんだ。
恥ずかしくなって、思わず後ろを向いてしまった。

「あっ、いややっぱり」
「そっか…」

小さな声で何かキャプテンが呟いた。俺には聞き取れなくて、聞き返そうと踵を返した。ら、キャプテンの顔が目の前にあって、そのまま口を柔らかいもので塞がれた。それが唇だと分かるまで時間がかかった。

「きゃきゃきゃきゃ、キャプテン!」
「俺も好きだぜ、飛鷹!」

慌てすぎて自分の髪型が崩れている事にも気付かなかった。いや、そんな事気にしている場合ではない。嬉しくて、心臓が口から出そうだった。
よろしくな、と笑うキャプテンの顔を見て、嬉しく思う反面、この事実をチームメイトが知った時の事を考えて少し恐ろしくなった。




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飛鷹乙女 キャプテンやっぱり男前


20100822

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