※死ネタ
※リュウジがおかしい子




聞く耳ももたない





ヒロトと、些細なことで口論になった。俺がまたウジウジしてることにヒロトは腹を立てたらしい。
俺がまだエイリア学園のことを引きずってるからいけないんだけど、ヒロトに何が分かるんだって思ってしまった。
父さんのお気に入りで、実力も充分にあったヒロトに。


「だから、言ってるだろ!ヒロトには関係ないって!ヒロトに俺の何が分かるって言うんだよ!」
「そりゃ緑川の全部は分からないけど…」
「じゃあもうどこかへ行ってくれよ!」
「緑川、俺は緑川のことが好きなんだ。緑川が苦しんでたら俺だって苦しいんだ」

眉尻を下げて苦しそうに笑うヒロト。い
つもの俺ならこう言われたら気持ちが静まるところだけど、この時の俺は色んな感情が折り重なってそれどころではなかった。

「…好きって言うんならさ、なんでいっつも円堂の所にいるのさ」
「円堂くんは…俺の憧れだよ。エイリア学園時代から」
「いや、あれは憧れだけの視線じゃない!ヒロトさ、本当は円堂のこと好きなんでしょ?」
「何言ってるんだよ。だから円堂くんは…!」
「円堂くん円堂くんって本っ当うるさい!」

俺のあげた声にびくっと肩が竦んだヒロトは、悲しい顔をしていた。
何さ、自分は悲劇のヒロインだみたいな顔して。全部悪いのはヒロトの癖に、ヒロトがいなければ

「緑川、」
「そっか… ればいいんだ」
「み、どりかわ?何…」
「円堂が好きならそう言ってくれればいいのに、ヒロト」

にこりと笑いかけると、ヒロトはあまり見たことがない顔をした。恐怖に歪む顔って感じ?何を恐れることがあるんだろう。
俺が近付くと、ずっと座ったまま後退りする。一歩、また一歩とヒロトに近付いていく。ヒロトが後ろの本棚にぶつかった後、やっと距離が縮まった。
ヒロトは俺が怒ってることが怖いのかな?心配しなくても、もう怒ってなんかないのにね。
右手はヒロトの頬に添えて、左手は本棚の上を探る。確かここに…あった。
ずっしりと手に伝わる重量感。買ってから殆ど使ったことなんてなかったからきっと錆びてなんかないだろう。


「緑川、それなに…」
「ねえヒロト。俺のこと好き?」
「え、ああ好きだよ」
「俺のこと愛してる?」
「あ、いしてる」
「円堂より?」
「っなんでそこで円堂くんが出てくるんだよ」
「ヒロトもさ、誰かにあげるくらいなら自分の手で壊しちゃおうって時、ない?」
「緑川…?」
「おせっかいで、父さんに好かれてて、能力もあって、円堂のことが好きで、それなのに俺のこと好きだとか言ってさ」

ヒロトの頬にあった右手を離して、左手のものを右手に持ちかえる。黒い部分を押して先を出す。カチカチカチと無機質な音が部屋に反響する。

「本当馬鹿だよね。俺ずっと嫉妬してた。俺にないものばかりもってるから。でも、もうそんな感情いらなくなるんだ」

右手を振り上げる。ヒロトの顔が段々強ばっていくのがわかった。
なにしてんだろって頭の中は不思議と冷静だった。感情にまかせてこんなことして、って思ってるのに止めることなんて出来ない。本当は、こうなることを望んでたのかなって。


「いなくなれば、おせっかいを聞くこともないし、能力を比べられることもない、誰かに取られることもない。まあ、君を好きになる人は沢山いても、俺を好きになる人なんて君くらいだけど」
「…緑川?」
「…いなくなれば、俺は苦しまなくたっていいんだ!」

「リュウジ!!!」


振り上げた右手を綺麗に振り下ろした。やっぱりカッターなんかじゃ一発で上手くは刺さんないな、と思いながら抜くと同時に血液が噴き出した。どうやら動脈を切ったらしい。俺のTシャツと、顔と、髪の毛と、近距離だったから至る所に掛かったその生温かさ。

「リュ、ウジ…」

ガタガタ震えながら伸ばされた手が、俺の頬に触れた。返り血でびしょびょになった頬に。
あ、まだヒロトの手、あったかい。俺の身体のが冷たいみたいで、じんじんする。それと同時に、冷たいものが頬を流れた。
見えてるのか見えてないのか微妙な目で、ヒロトは俺を見てにこりと笑った。口を開く。声はもう出ないみたいだ。当たり前だ、喉を、切ったんだから。

す、き

そう言ったように見えた。言ってから、また微笑んだ。
なんで、なんで笑えるんだ。苦しいはずなのに。こんな、頭がおかしい自分に、なんで!
次々と流れていく冷たい涙を震えるヒロトの手が拭った。
これでよかったんじゃないのか?これで全て


「うっ、うわああああああああぁぁ!!!」

目を瞑ってもう一度喉に切っ先を突き刺した。さっきよりも血液が噴き出る。目を開けると、視界は血で真っ赤だった。
血で真っ赤になったヒロトは目を見開いたまま、眼球だけを俺の顔に向けた。口がパクパクと空気を欲した魚のように動いている。
もう助からない、冷静な頭はそう告げた。でも、俺の空気をあげよう。
飛び散った血液がついたままの自分の唇を、ヒロトの真っ青になりだした唇に押し付けた。








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ほんとうはいちばんヒロトに依存してたリュウジ







20100820

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