夕日と彼は





「円堂くーん!」
「円堂さーん!」

赤色と茶色の髪が俺の視界で揺れながらこっちに向かってくる。きゃっきゃと笑いながらこちらに来る様子は、まるで女の子だ。

「立向居にヒロト、どうしたんだ?」

ニコニコしてるヒロトと、少しムッとした顔の立向居。さっきまでの和やかな空気は一変したように感じた。
ふふふ、と笑うヒロトに対して、立向居は少し声を荒げて俺にこう告げた。

「ヒロトさんだけ、ずるいです」
「なっ何がずるいんだ?」
「円堂さん!何でヒロトさんだけ下の名前で呼んでるんですか?」

へっ?と間抜けな声を出してしまった。なんだ、そんなこと…と口を出そうと思ったら、ニコニコ顔のヒロトに口を挟まれた。

「ヒロトって呼ばれた方が皆が分かりやすいからだよ」
「別に基山でもいいじゃないですか!ヒロトさんだけ贔屓ですよ」
「贔屓じゃないよ。これが僕と円堂くんの運命なんだよ…」
「あ、でもヒロトさんは呼び捨てから名字呼びの格下げでしたよね」
「かっ…そんなことないよ、これは皆に親密さが分からないようにしてるだけだよ」

「別に贔屓してるって訳じゃないんだけどな…」二人で討論をし始めて置いてけぼりな感じは否めなかったが、特にヒロトだけを贔屓しては居ないためそこは訂正しておいた。
すると討論が中断し、ヒロトはそうだよね円堂くん。なんて左腕にしがみついてきた。

「あー!ヒロトさんばっかりずるいです!」

それを見た立向居も、俺の左腕にがっしりとしがみついてきた。全身をぴっちりと密着させるように引っ付いている。

「あのさ…二人とも暑いんだけど…」

二人を交互に見ても、一向にこの体制から変わろうとはしないらしい。それどころかどんどん密着度は増している。両端の二人が互いに押し合うため、真ん中の俺は潰されてしまうんじゃないかと思った。
はあ、と小さな溜め息をして、つたない頭でこの状況をどうやって打開しようか考え始めた頃、視線の先に空色の髪を見つけた。
俺の視線に気付いたのか、こちらを見てギョッとした風丸は、苦笑いを浮かべながらこちらへと歩いてきた。

「なんだお前たち。暑苦しいな」
「はっ!風丸さん!」
「幼なじみだからって風丸くんに円堂くんを渡す訳には行かないよ…」
「なんだそれ…」

完全に敵意剥き出しの二人に苦笑いを浮かべながら、それでも暑苦しいから離れろ!と風丸は無理矢理二人を引き剥がした。風丸に無理矢理引き剥がされたことに対して文句を言いながらこの場を立ち去ろうとした二人に、俺は声を掛けた。

「なんかよくわかんなかったけど、名前で呼んで欲しいのか?」
「ひゃっ、いや…そういう訳じゃ…あ、そういう訳だっけ?」
「僕に聞かないでよ立向居くん。僕はこのままでいいんだからね」
「じゃあ、これから勇気って呼べばいいのか?」
「ひゃ!どどどどうしよヒロトさん!円堂さんが、円堂さんが俺のこと…!」
「うるさいよ立向居くん」
「あっありがとうございます円堂さん!えと、失礼しました!」
「あ、ああじゃあな勇気にヒロト!」

あああああと奇声を発する立向居をヒロトが引っ張っている。さながら憧れの男子に会えた女子みたいな感じだ。
隣にいた風丸が苦笑しながらモテモテだな、と呟いた。

「そんなことないぞ。俺が一番好きなのは風丸だからな」
「えっ円堂!」

いきなりの俺の発言にびっくりしたのか、顔を真っ赤にして俺にしがみついてきた。今日はしがみつかれてばっかりだな、と思いながら風丸の頭をぽんぽんと撫でた。

「円堂…それ恥ずかしいからやめてくれ…」
「え?いいじゃん。だって風丸可愛いしさ」
「男に可愛いって言うなよ…」
「いいのいいの。特訓も終わったし帰ろうぜ!」

しがみついていた手を取って更衣室へと走る。いきなり走らされた風丸は、体勢を崩しそうになったが、なんとか持ち直していた。
あー可愛い、なんてもう一度言ったら怒られるだろうから心の中で留めておいた。
そう言えば、ヒロトと立向居みたいに、名前で呼んだら喜ぶのかな…。


「一郎太、大好きだぜ!」

振り向きざまにそう言うと、ピタッと動きが止まって、手を引いていた俺と共にずっこけた。
急に止まった風丸を背中で押し倒すような形になる。急いで身体を反転させると真っ赤な顔の風丸と対面した。…やばいすげー可愛い。

「…いきなり名前で呼ばないでくれ…心臓に悪い」
「そうか?こういうのはエッチの時に言った方がいいのか?」
「ば馬鹿!」

折角名前で呼んでみたのに微妙な反応をされてちょっとつまらなかったから、耳まで真っ赤な風丸に、触れるだけの軽いキスをした。ちょ、ここグラウンド…!という風丸に微笑んで、そのまま手を引いて立ち上がらせた。
空いている片手でキスされた唇を押さえている。
「大丈夫!誰も見てないって」
「見てたらどうするんだ馬鹿!」

唇を押さえていた手で頭を思い切り叩かれる。鈍い音と共に痛みが生じて、思わず声をあげた。罰だ罰、と言う風丸の顔色は夕日と同じ色。真っ赤になった風丸をまた愛おしく思い、握り締めていた手を引きぎゅっと抱き締めた。

「なら、見せつけてやろうぜ」








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勝手ながら葉月さまへ相互ありがとうございました!のお話です ゴミのようなものですみませんでした…
なんだか男前すぎる円堂さんになってしまって自分でもびっくりです きっとこの円堂さんはサッカーしようぜ!洗脳はしないと思います



20100817



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