"一緒に いたい"
子供ながらにそう思った
練習も終わり、みんなで挨拶をして解散。
今日も土方くんと必殺技の練習をして、くたくたになっていた。もちろん他のみんなも必殺技の練習や、技術向上に向けて頑張っていた。
他のチームメイトと共に更衣室に行こうとしたけど、ふと用事を思い出して踏みとどまった。
踵を返してグラウンドの方を向く。殆どのチームメイトは更衣室へと身体を向けていたが、グラウンドにぽつん、と人影があった。キャプテンだ。
すう、と息を吸った
「円堂ー!」
グラウンドに響き渡ったキャプテンを呼ぶ声。紛れもない風丸くんの声だ。僕の吸った息は声にはならず、そのまま留まった。
風丸くんはキャプテンとは幼なじみで、元々は陸上部だったんだってキャプテンから聞いた。(キャプテンは凄く嬉しそうにしてた)
やっぱり、年月って大きいよね。自分に言い聞かすようにそうぽつりと告げた。…あれ、僕なに言ってんだろ…。
自分が何を言ったのか、自分の耳を疑った。今の、こ
ぶんぶんと、もやもやした気持ちを掻き消すように頭を振った。頭を振りすぎたみたいで一瞬くらっとした。
そのまま膝に手を付くように少し前屈みになり、目を瞑った。目を瞑るのは心地が良くて好きだ。決して独りになるからっていう訳じゃないんだけど(むしろ独りは嫌かな)、なんでだろ。
(お前、キャプテンのこと好きなんだろ?)
脳内に響く僕より低い声。呆れたような、嘲笑うかのようなアツヤの声。
(キャプテンのこと、好きなんだろ)
さっきよりも大きめの声。疑問が肯定に変わる。誰が誰を好きだって?
僕が、キャプテンを?
(間違いねぇな。あの顔は好きな人を見る顔だ)
適当なことを言うアツヤの言葉が、今は真実なのかもしれないと思った。僕は、キャプテンが…
(まあ、きっと)
「あれ?吹雪、気分悪いのか?」
アツヤの声を遮るように、透き通る声が聞こえた。はっとして顔を上げる。キャプテンだ
「どうしたんだ?ほら、立てるか?」
知らない間に座ってしまっていたらしい。ほら、と差し伸べられた手を取って立ち上がる。
キャプテンは、今日の特訓も大変だったしな。なんて漏らす。別に特訓疲れでへばってた訳じゃなかったけど、言うのはやめた。
多分僕は、キャプテンが風丸くんにとられたんじゃないかって、考えてたんだと思う。
でも今は、僕といっしょ。そう思うと顔が赤くなって、体温が上昇した気がした。体中のが心臓になったみたいに脈をうつ。自覚したら急に恋する乙女の気分だ、なんて思った。
「ふ、吹雪?大丈夫か?」
立ち上がってもぼぅっと手を握ったままだった僕を不思議に思ったのか、キャプテンが顔を覗き込んで来た。
今、顔見られたら…
「顔真っ赤じゃないか!熱でもあるのかっ?」
他人に指摘されると余計意識してしまって、収拾がつかなくなってしまった。キャプテンの顔もまともに見ることが出来ないまま、なんでもない、大丈夫だよ。と絞り出した声で告げて、更衣室まで走った。
(こりゃ、末期だな)
呆れた声でそう呟くアツヤの声が聞こえた気がした。
20100707