みどりいろのなみだ
あー
と声を出した。また思い出してしまった。一体自分はどれだけ黒歴史をほじくり返せばいいのだろうか。
変われた筈なのに。
なんで、またこんな気持ちになるんだろう。胸の奥がざわざわして、息が苦しい。
イナズマジャパンとして、最後まで行けなかったから?いや、それは自分の努力不足だって分かってた。それに俺が皆についていこうだなんておこがましい。
俺は、そもそもイナズマジャパン入りしてよかったのか?アジア予選でも皆の足を引っ張って、俺じゃない別の人を入れた方がよかったんじゃ?
俺が皆より劣ってるから。皆の何倍も努力しなきゃいけないのに、それを怠ったから…。
…いや、エイリア学園時代のことはもう過ぎた筈だ。自分のサッカーが通用しないんじゃないかって悩んだりしたけど、ヒロトはそうじゃないって言ってくれた。
それに、雷門中のキャプテンも、お前は誰にも劣ってなんかないって言ってくれたっけ。(いや、あの人はただ熱血なだけかな)
ガゼルもバーンも、砂木沼さんも、見直してくれた。俺をセカンドランクなんて言う人はいない。
じゃあ、どうして。
苦しくて、涙が出てきた。ベッドにくるまって、必死に嗚咽を堪える。
頭では、そんなことないって分かってるつもりだ。でも実際、全然分かってなんかない。
なんなんだ俺は。そんなに悲劇のヒロインにでもなりたいのか?
皆でサッカーがしたい気持ちと、俺なんかじゃだめなんだという気持ちが、頭の中でぐちゃぐちゃになっている。
俺はどうしたら、
「緑川いるかー?」
大きい音と共に、聞き慣れた大きい声が聞こえ、びくっと身体が硬直した。
涙を拭いながら、身体をドア側に向ける。滲む視界に映し出されたのは、キャプテンの姿だった。
「キャ、キャプテン?どうして、ここに…」
会いたかった、と気持ちを素直に伝えるキャプテン。ちょっと照れ臭そうにバンダナを触っている。
自分の顔が真っ赤になるのが分かった。キャプテンの目が直視出来なくて、思わず目線をそらした。
「元気だったか?緑川」
「は、はい…元気で、す」
身体をベッドから起こす。知らない間に近くに来ていたキャプテンを、ベッドの空いたスペースに座らせた。
「あの、キャプテン。なんで来たんですか」
「なんでって、会いたくなったからに決まってるだろ!あ、もしかして迷惑だったか?」
「あ、いやそんなんじゃないです…ただ、」
「ただ?」
「こんな俺のために、わざわざ来てもらっちゃって、すみません」
そう言い終わる前に、両頬を手で抑えられた。日頃酷使している手のひらは、固く、暖かかった。
人の温もりを感じたのはいつだったか。あったかい感覚に思わず涙が滲む。
「ばか、そんなことばっかり言うなよ。緑川に会いたいから来たんだ。強いて言うなら俺のためかな」
「キャプテンのため、」
「そう、俺のため。あと、緑川が変な事考えて、独りで悩まないように」
両頬に有った手は、そのまま髪の生え際を過ぎ、自分の長い髪の毛に絡まった。優しく、壊れ物を扱うかのように俺の髪の毛を梳く。
すごくドキッとした。なんだろう。キャプテンには、もしかしたら全てお見通しなのかもしれない。
ニカッと笑って俺の顔を見る。
「緑川は、何にも悩む必要なんかない。劣ってなんかない。俺は、緑川にしか出来ないサッカーをして欲しい」
「………」
「皆、サッカーのプレースタイルは違うだろ?人の真似ばっかりしてたって、やってる方も観客もつまらない。見せつけてやるんだ!自分のサッカーはこうなんだって」
「俺の、サッカー…」
俺がそう呟くと、満足げに笑う。その笑顔につられて俺も笑みをこぼした。
髪の毛にあった手は、するすると下に下がっていって、両肩を優しく押さえた。
キスしていいか?と言うキャプテンの声が右耳から聞こえて、首を縦に振った。それからゆっくりと唇が近付いて、合わさった。
触れるだけの、軽くて短いキス。でも、大人に成り切れない俺たちにとってはそれだけで満足するものだった。恥ずかしくなって、また二人で笑い合った。
「キャプテン」
「…あのさ、そのキャプテン言うのやめろよ。なんかムズムズするし」
「あ、ごめんなさい…えっと、円堂さん」
俯き加減で声を掛けた。ポニーテールに結ってない髪の毛が顔に掛かって、恥ずかしくて真っ赤になっている顔を隠してくれる。
「円堂さん、好きです。…愛してます」
大人に成り切れない俺が、"愛してる"だなんて言葉を使うのは、背伸びしすぎてると思った。
円堂さんは目を真ん丸にして、驚いた様子だった。緑川の口からその言葉聞いたの初めて。なんて言って、嬉しそうにしてくれた。
笑いながら、俺もだよ。と言った円堂さんの顔は、男らしくて思わず見とれてしまった。
どちらからでもなく、またキスをした。
20100806
----------------
リュウジの黒歴史を引っ張るのが好きです^^