蝉がうるさい。氷の入ったガラスのコップがカランコロンと音を鳴らす。ガラスを揺らしているのは、青峰だけど。
暑がりの彼が着ているタンクトップが、黒い肌が、バスケで鍛えた筋肉を惜しみなく出しどこか恐怖すら与える。
そこからスッと伸びる大きな、ごつごつとした手が100均で買った小さなコップを持ち上げるのはどこか困難なように見えてその大きな掌がやっすいガラスのコップを割ってしまわないか、見ているこっちがハラハラする。

「青峰、コップ置けば?」
「あ?いいんだよ、そんなことより注げ」
「あー、はいはい」

一口が、違う。こんな小さなコップに入った麦茶なんて彼は数秒で飲み干してしまう。
私はまだ一杯目の麦茶をちびちび飲みながら、そんな青峰を観察した。

「……なに見てんだよ」
「なーんにも」

クーラーが室温に反応して起動したのかウィンウィンと機械音が部屋を支配する。
この沈黙が居心地を悪くする。だけど、この気まずさをどうにかする気もサラサラないので出来るなら青峰頑張ってくれ程度。
ふう、と一息つきまた一口麦茶を飲んだところでふと思い出した。
桃井さんの、ことを。

会ったら、部活あるかどうか聞いておいてほしいって。彼女はそう私に頼みに来た。……ああ、忘れてた。

「青峰」
「んだよ」
「……今日さー、部活あんの?」
「………」

青峰は、黙った。クーラーがうるさい。
ふと視界の端に窓に吊るされた風鈴が映った。夏に毎年つけている風鈴も今日ほど風が無いと音を出さずに静かだ。

「……あっけど、部活」

青峰が絞り出したようにそう告げた。私は、風鈴から青峰に視界を戻す。そうかい、あるのかい。

「行かなくていいの?」
「行ってほしいのかよ」
「そういう話じゃない。青峰が、行かなくていいのかって話」

三白眼がギロリを私を睨んだ。青峰の目力は人を殺せるんじゃないか、なんて冗談交じりに言えれば楽だったんだろうけど生憎私はそこまでユーモアに優れたわけでも冗談を言える体質でもないから、黙って俯いた。

「行けって、言いたいんだろ?」

青峰が、腰を上げた。私は、反射的にそれを掴む。

「そうは、言ってない。そう、思ってないから」

ゆっくりと、私達は沈下していく。
夏の暑さに、頭をやられながら。

「じゃあ、素直にそう言えよ」

黒い肌、健康そうなタンクトップからしっかりとした腕と大きな手。
目つきの悪い三白眼に薄い唇が、私を放すまいと絡まるのだ。

まるで、残暑のように。