じりじり、じりじり。

せっかくの夏休みなのに、伊月くんは部活。
何かに力を注ぐのはいいことだと思うし、バスケしてるときの伊月くんは確かに輝いてる。
我ながら子どもっぽいと思うけど、その視線の先に私がいないのが不満で試合とかにも応援にいかない。 ……ううん、いけない。

だって、こんな姿見せたくない。
というより見せれないよ。

ゴロンと寝返りをうって、汗ばんだ額に腕を乗せる。
伊月くん、こんな暑いのに部活がんばってるんだよね。
そう思ったらなんとなくクーラーとか扇風機をつけれなくて。


「熱射病、なっちゃうかも…」


ぽつりと呟いた言葉が、シャレに聞こえなくて乾いた笑いが漏れる。
バカだよなぁ、私。


「会いたいよ、伊月くん……会いたい。」


額に置いていた腕を目元に移して、グッと唇を噛む。
夏休みに入ってからというもの、なんだかんだ伊月くんとは予定が合わなくて、悲しくなるからメールも電話もしてない。
応援にいかない分、わがまま言いたくなくてずっと我慢してた。
でも……もう限界かもしれない。


「なに、泣いてるの?」


ふわりと頭を撫でるような感覚と一緒に、優しい声が聞えた。
それから懐かしい匂い。


「っ、い、伊月くん…!」

「久しぶり名前、来ちゃったよ。」

「来ちゃったって……てかなんで上がって…!」

「お母さんがね、上にいるから元気付けてあげてって。」


さらっとそう言ってのけた伊月くんの言葉に、ウインクするお母さんの顔が浮かんできた。
あの人は年頃の娘の部屋に男上げるのに抵抗しないのか、……まぁしてたら伊月くんいないか。


「それにしてもこの部屋暑すぎ、熱射病になるよ?」

「あぁ、うん…」


そっと離れた伊月くんに寂しさを感じて、気のない返事をしてしまう。
もしかしたらまだ夢の中なのかもしれないって思ってるのかも。


「どうしたの? しんどい?」

「……んーん、そんなんじゃな、」


振り向いて心配そうな顔をする伊月くんに、首を横に振りながら起き上がろうとしたら、不意にクラっとして言葉に詰まってしまった。
と言っても立ちくらみみたいな軽いものだけど。


「っ、おい名前!」

「あ……大丈夫、平気。」


慌てたように傍にきて、支えてくれる伊月くん。
急に近づいた距離にどくんと心臓が高鳴った。
触れた伊月くんの手が冷たくて、なんだかすごく不思議な感じ。


「大丈夫? 病院行くか?」

「心配しすぎ、大丈夫だよ?」

「……でも、」


必死に気持ちを隠して笑う。
それがムリに笑ってるように見えたのか、眉を顰める伊月くん。
だけどすぐに折れて、ぎゅうっと私を抱きしめて。


「え、ちょっ、…!」

「……とりあえず、これからはちゃんとクーラーなり扇風機なり付けて熱射病対策して、わかった?」

「あ、う、うん…」

「ん、いい子。」


そう言って、汗ばんだままの額に唇を寄せる伊月くん。
それからニッとしたり顔をして。
なんかムダにカッコよくて悔しかったから、思いっきり抱きついてやった。


熱射病注意報
(「まぁ、たぶん軽い熱射病だと思うからゆっくり休んでて。」)
(「ふふ、残念だね? 熱中症だったら、キスできたかもなのに。」)
(「……お前なぁ、」)
(「ね、ちゅーしよ?」)
(「(我慢だ、我慢しろ、俺。)」)