ガンガンに輝く太陽が憎い。いや太陽は季節関係なく燃えてるから太陽が悪いんじゃなくて傾いてる地球が悪い。おまけに日本の夏は蒸し蒸しだ。日本のって言ったけど、外国の夏を知っているわけではない。先ほど地理教師から入た知恵。日本の夏の救世主はジャリジャリくんだ。私は賞をあげて賛美したいくらいだ。夏期講習後の赤点者用の補習に素直に参加したあと先生からもらったジャリジャリくんを食べながら廊下を歩く。ペタペタ。私はモデルのように歩けないから足音は情けないペタ音。空気中が水分多くてゴム底の運動靴と廊下が擦れあってるんだ。私は悪くない。体育館の方向からはキュッキュッとかっこいい音がする。そういえばサボり仲間の紫原くんは部活にでるからって補習には出てないんだった。いいなスポーツ推薦野郎。

「紫原コノヤロー」
「えー ひどい」

真上から頭に響く声。そして大きな手が頭の上に乗せられた。悪口いけないんだー。あー、ジャリジャリくんいいななんて声の主は至って暢気だ。

「おもーい」
「ジャリジャリくんー」
「これは補習でたご褒美なのだよ」
「えー 俺も出ればよかった」

部活なんてだるいしーとお決まりの台詞。紫原くんのことだから部活から抜け出してきたのだろう。部活に戻りなよなんて授業サボり魔の私は言えない。まぁいう気もない。てゆうか、熱いし重い。離れろーと頭をふった。

「相変わらず よわっちー力だね。」
「そりゃあ大男のキミと比べればね。だから手とってよ」
「だって手の置き場にちょうどいいもん」
「いやみー」

そしたらさっき俺のことコノヤローって言ったんだもんって頬を膨らませた。引きずる男は嫌われるぜ紫原くん。あ、水泳部だって突然窓の外に話題を反らした。窓は私が背伸びしないとちょっと見えにくい。どれどれと窓枠に手をかけ背伸びをするとプールで泳ぐ水泳部がなんとも涼しげだ。

「いいな 水泳部」
「あ」
「ん?」
「今夜、プールに忍びこもーね」




**





だって私と紫原くんだもん。誰も止める人はいなかった。しかも半分くらい紫原くんの言い方に拒否権はなかった。時間は7時半に待ち合わせ。携帯だけを持ってコンビニに行くと家をでた。適当人間だけど嘘をつくのは苦手。悪いことしてるみたい。いや悪いことするんだけどさ。学校近くのコンビニで携帯をいじってた。そしたらコンビニの入り口の開く独特のメロディが流れた。影は大きい。見上げれば1つまいう棒をくわえ、まいう棒がレジ袋いっぱいに入っているのを2つほど持っている紫原くんがいた。この男まじで大物。小さくて見えなかったーという嫌味も忘れてない。

「ほんとに来たんだー」
「ほぼ命令だったじゃん。まぁ、夜のプールに興味もあったし」
「ツンデレ?」
「そんなことないんだからねっ」
「今のだめー」

私は見上げ紫原くんは見下げた。だるそうなたれ目と私の目があって、なんだかおかしくて笑った。冗談も言い合えるし距離感だってちょうどいい。私たちは悪友。そんな名前がちょうどいい。




「うわー 夜のプールだ」

紫原くんの謎の力を借りてプールまで難なく侵入出来た。うわー アホっぽい発言と明太子味のまいう棒を食べている紫原くんに言われたくない。そして何故かプールの鍵を持っていてそれを使って開けた。

「水着持ってきたら良かった」
「え?」
「え?」
「持ってきてないの?」
「うん? まさかここまでプール様に近づけるなんて思ってなかったもんで。」

あちゃー 失敗したーって長い髪に隠れた顔は残念そうな表情。

「水着姿、独占出来ると思ってたー」
「…え?っておわっ!」

紫原くんが水面を蹴って突然水をかけてきた。それよりもこの巨人はさっきなんて言った?誰が誰の水着を独占?でもやられたらやり返すスタンスの私は紫原くんに水をかけた。それにやり返す紫原くんでエンドレスの水かけ大会。

「わっ」

しゃがんでいた私はぐらりと体勢を崩した。やばい、落ちると思ったとき水面側の半身をはたかれた。そのまま私はプールサイドに倒れこんだがものすごい水しぶきが上がった。そしてプールサイドに紫原くんの姿はない。む、紫原くん…!?

慌ててプールを覗いた。波紋は広がるが暗くて水中はよく見えない。静まりかえる周りはまるで時間が止まったようで、取り残された私の心臓はどんどん速まるのがわかった。怖くて声が出ない。

その瞬間。

ザパンと大きな音をたて水面から紫原くんで出てきた。「あー びっしょびっしょだ」なんていつもの調子で喋り髪をかき上げる彼。

「ッバカ、」

暢気なこの大男はきょとんと私を見つめる。なんで泣いてるのと問われて初めて泣いてることに気づいた。ボロボロと大粒の涙が拭っても拭っても溢れてくる。

「心配してくれたの?」

縁に腰をかけてもプールサイドに座り込む私より座高が高い紫原くんはその大きな手で頭を撫でてもう片方の手の指で涙を拭ってくれた。必死に下を向こうとすると阻止するように顎を救われた。

「ねぇ、答えて?」

お菓子を食べてる時より一緒に屋上でサボってる時より授業を受けてる時より真面目な眼差しは一度だけ見た部活に参加してる紫原くんの目に近いような。

「しんぱい、したよ」

たぶん心配したよなんて普通の台詞だけど彼の意味深な発言や私の心臓早い鼓動のせいで恥ずかしく重い台詞となった。月明かりがにやりと上がった彼の口角を照らした。ああ、私は彼の大きな手のひらの上で踊らされていたのかな。私は何にも縛られてないと思っていたけど無意識のうちに彼を考えていた。今日だって断れなかったのは彼と一緒に居たかったからだ。

すると影が近づいてきて唇に冷たい唇が触れた。目を見開く私と目を閉じてる紫原くん。ああ綺麗な顔だなって私も暢気だった。

「これで許してあげる」

ペロリと唇を舐めた妖しい顔の紫原くんにこれからも翻弄されることを私は悟った。