呻くような声がまるで彼の心の軋みみたいで、考えも及ばないままにわたしの足は駆け出していた。どうしてかはわからない。けれど、今放ってしまったなら彼の心が確実に壊れてしまうような、そんな気がしたのだ。
わたしよりいくらも大きいその身体は、何かに怯えるように震えていた。それは極限のない怒りになのか、蝕むような悲しみになのか。見開かれた瞳孔は気が触れてしまいそうなくらい血走っていて、彼に抱く恐怖よりも彼が壊れてしまうことへの恐怖が増幅するようだった。このままだと、シズちゃんは折原くんを殺してしまうんじゃないだろうか。そんなことをしたら、きっとシズちゃんは本当に壊れてしまう。必死の想いで腕にしがみつく力を強める。名前を呼ぶ声がおかしいくらいに震えて上擦るのも構わず、ひたすらに呼び続けた。シズちゃん、シズちゃん、シズちゃん。

ねえ、本当のことを言うとね。わたし、あなたのことを化け物だと言われて否定ができないの。確かにシズちゃんの力は人並みを逸脱していて、常人とは言い難い。それは化け物と形容してしまうことが似つかわしいくらいに。でも、それでも、あなたはとてもあたたかい。それをわたしは知っている。だから、化け物のあなたごとわたしは受け入れたい。あなたの不器用で思いやりのある優しさも、実は誰より臆病だったりする弱さも、その内に眠る底知れない凶暴な破壊衝動さえも、全部わたしに受け止めさせてほしい。それじゃあ、駄目なのだろうか。

朦朧とする意識と痛みの中で、酷く傷付いた彼の顔が霞んでいく。ねえ、そんな顔しないで。大丈夫。こわくないよ、シズちゃん。だって、わたしはあなたが────