「シズちゃん、好き」

そう言葉にすれば、嬉しそうに見開かれる瞳の反面、申し訳なさそうに下がるあなたの眉がわたしは嫌いだ。

「ありがとな、だけど」

俺は化け物だから。そう重ねられる自分自身を否定する言葉も嫌い。池袋の人間は皆、彼を化け物と形容する。あの人の皮を被った悪魔みたいな折原臨也すら、彼を化け物と呼ぶのだ。それも仕方ないのだろう。彼の力は確かに人並みを逸脱している。人間じゃない、そうも言いたくなるほどにそれは異端で、桁外れだ。

「お前も知ってるだろ。俺は、普通の人間とは違う。そこらの奴とは違うんだ。力は有り余りすぎて周りにあるもんを考えなしに壊しちまう。ナイフも刺さらなきゃ貫かれたって痛みも感じねえ」

だけど、それでも嫌なのだ。どれだけ周りに何を言われていても、あなたに──シズちゃん自身にだけはその言葉を言ってほしくないんだよ。だってねえ、それって"諦め"でしょう。

「そんな俺が、お前みたいな普通の女の好意を受け取っていいわけがねえんだ。俺は、お前のことを傷付けちまうから」

だから、ごめんな。そう言って優しく優しく、大きな手のひらが彼の肩にも届かないわたしの頭に乗せられる。乗せるだけだ。撫でることは、叶わない。彼自身がこれ以上を諦めているから。

「……それならわたしがシズちゃんの指を、腕を、足を、切り落とすよ」

ぎりりと、歯を立てた下唇が血を滲ませて鈍く痛む。彼には、こんな些細な痛みなんて感じることもないのだろう。それはどうしようもない事実だ。

「ナイフで無理ならノコギリで、それでも無理ならチェーンソーだって使う。切り落としたら、シズちゃんの腕や足は生えてくるの?それこそ映画やアニメの怪物みたいに、生えてくるの?生えないよね。血が出るんだよ。切り落とした場所からどくどく血が出て、放っておいたら出血多量で死ぬの。死んじゃうの。だからシズちゃんは化け物なんかじゃない。人間だよ。わたしと同じ、何も変わらない、人間なの」

たとえどれだけ噛み締めたってその下唇からは血が流れないとしても、どれだけ爪を立てたってその肌に傷一つ残らないとしても、ねえ、それ以上に──心はちゃんと痛んでいるはずだ。その痛みを見て見ぬふりするなんて、できるはずがない。だってシズちゃんは感情も何もない化け物なんかじゃないんだから。

「だから、そんな悲しいこと言わないで」

ぽすりと、力なく胸に体を預ければ彼の手に戸惑うような力がこもる。うつ向く顔を覗きこむと、酷く泣きそうな顔をしていた。背伸びをして頬に触れる。小さく小さく声が降った。ごめんな、と。

ねえ、シズちゃんは涙だって流せるじゃない。
悲しみに暮れる頬をいつまで拭い続ければ、あなたはそれをわかってくれるのだろう。