熱いくらいの火燵に足を突っ込んでぱたぱたと暴れていると向かい側に座っている光にガキか、と馬鹿にされその足を蹴られた。蹴るほうも蹴るほうだ。そう言い返してやりたくなる。けれどまた反撃にあいそうだから、開いた口をきゅっとつぐんで何を見るでもないのにリモコンを手にとってテレビをつけた。ぱちぱちとチャンネルを切り替えていくとドラマの再放送やタレントの旅番組が目に映る。さして興味もない番組でチャンネルを放置して光を見れば、机に置かれていたみかんを剥いていた。暖かい室内と冬真っ只中の外に挟まれた窓はひんやりとした結露を滲ませている。また足をぱたぱたと動かしてみるけれど、今度は光は何も言ってこなかった。

私たちは一応、そう、一応恋人だ。冬休みにお互いの家でこうやって何もない時間を過ごすくらいには恋人なのだ。けれどその先には進まない。私は光が好きだし、光も私が好きなはずなのに。はず、というのは光が口に出して好きと言ったことが片手で数えられるくらいにも満たないからで、正直なところ私は今のこの関係が少し不安だった。キスをしたり抱き合ったり、そういったことをしてほしいわけじゃない。この不安を埋めてくれるくらいには言葉が欲しいと思うだけだ。

「──き、なん?」

ぽつり、こぼれた言葉は生温い空気に消えた。え?と聞き返してくる光の視線は私には向かない。私も光のほうを見ない。

「好き、なん?」

「好きて、みかんが?」

「……みかん、が!」

まあそれなりにな、そう言って白い皮まで几帳面にとったつるつるのみかんを半分に割って私へと手渡す。みかんちゃうし。私のことやし。でも、本当は知っている。光は少し神経質というか、潔癖の気がある。だから本来なら、こんな風に自分が一度手をつけたものを他人にあげたりしないこと。それを私にくれるということは、私を特別に思ってくれているということ。知っているのに、言葉にしてもらわないと不安な私はわがままで、そんな私に光は勿体ないのかもしれないなんて卑屈になる。恋をすると女の子は綺麗になるって言うのに、どうしてそんな風に私はなれないのだろうか。口に放り投げたみかんはやけに酸っぱくて嫌になる。

「……好き?」

今度はちゃんと光の方を見て言葉にする。またみかんが、なんてはぐらかされるのだろうか。合わされることのない視線がもどかしくてすぐに俯いてしまった。ぱたぱたぱた。行き場のない気持ちが火燵の中で暴れる。そしたらまた蹴りが入って、顔をあげるとやっとぶつかった。視線と視線。

「そんな顔すんなや、なまえ」

ちゃんと好きやから、そんな言葉が聞こえた気がして。