act.40
制服に着替えてから、すぐに第一体育館に引き返した。
途中で誰かに会ってしまうのではないかと思っていたけれど、大半の部員はもう帰ったのか、誰に会うこともなく体育館に辿り着けた。
閉め切られている扉の向こう側から、微かなボールの弾む音が聞こえてくる。
こうして会いに行ってまで話さなければいけないほど急を要することかと考えると、扉の前で尻込んでしまった。
とはいえ、今日は何もせずに帰るわけにもいかない。
意を決して、あまり音を立てないように静かに扉を開けて、中を覗く。
残っていたのは赤司先輩だけだった。
靴を脱いで、妙な静けさに包まれた体育館に入っていく。
赤司先輩はちょうどタオルで汗を拭っているところで、どうやら練習に一段落ついたところのようだ。
近くまで行って、声をかけるタイミングを見計らっていると、こちらの存在に気付いた赤司先輩の方から声をかけられた。
「純奈、もう帰ったんじゃなかったのか?」
「あ、ええと…赤司先輩と、少し話したくて…」
「…そうだね、僕も話したいことがあるんじゃないかと思っていたよ」
「はい…」
「……」
赤司先輩が、私が話を切り出すのを待っていることがなんとなく分かった。
慌てて言葉を探すけれど、なかなか見付からず口が動かない。
それどころか、赤司先輩を目の前にしていると、やはりこんなことをしてまで話すことではなかったのではないかと思えてきてしまう。
「あ、あの…ごめんなさい!私、ちょっと、今すぐには何から話していいか分からなくて…」
「…少し落ち着け。それから、もう慣れたから大丈夫だよ」
「…はい…」
「少し待ってもらえると助かるな。話は練習が終わってから聞こう」
「は、はい、分かりました…じゃあ、待ってますね…」
「ああ、すぐに済むよ」
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