act.35










部活が始まってから、それぞれが練習する場所へ向かっていく。
程なくして体育館には、ボールの弾む音、バッシュが床に擦れる音、掛け声、様々な音が響き渡った。

体育館と体育準備室を行き来して、美里香が忙しなく備品を運んでいる。
その姿を遠目で見ていた黄瀬が小さく息を吐いた。
ちょうどその瞬間を目にしていた青峰が、鬱陶しそうに眉をひそめる。
それから、上の空の黄瀬に向かってボールを投げつけた。
ボールの気配に気付いたのか、素早く反応した黄瀬は突然のことに目を丸くしながらも、難なくボールを受け取る。
しかし、思いがけないことをされて驚いたのか、口火を切った青峰を軽く睨んだ。



「い、いきなり何なんスか!危ないじゃないっスか!」

「おい、一対一してやるから付き合え」

「え…」

「嫌なら別にいいけどよ」

「なんでそうなるんスか…もちろんやるっスよ!」



背を向けて、一人でゴールリングの方へ歩いていく青峰に慌ててついていく。
思ってもみなかった青峰からの申し出に戸惑う反面、なぜ突然こんなことを言い出したのかと疑問を抱いてしまった。
黄瀬に反して、青峰はいつもと変わらない調子だ。
伸びをして欠伸をする青峰を見て、黄瀬はなんともいえない表情になる。
とはいえ、青峰と一対一ができる機会なんて滅多にない。
黄瀬は楽しそうにボールをバウンドさせながら青峰に声をかけた。



「青峰っちの方から誘ってもらえるなんて、嬉しいっス」

「バーカ。お前がいつまでも変な顔してっからだろーが」

「え?」

「ほら、ボールよこせよ」



顔を上げたとき、青峰が手でボールを渡せと合図を送る。
話を遮られたような気がしたけれど、問い詰める間もなく、黄瀬は青峰にボールを投げ返した。











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