act.34
美里香が女子更衣室に向かっていくと、ちょうど戸の前で立ち尽くしている純奈の姿を見付けた。
入るか入らないか、どうしようか迷っているのだろう。
純奈も美里香がやってきたことに気付いたのか、一瞬だけ顔を向けたけれど、すぐに逸らした。
しかし、美里香は何を言うわけでもなく黙ったままドアノブに手をかける。
純奈のことだから、バスケ部に戻ってくるだろうと思っていた。
ただでさえ純奈は赤司先輩と繋がっているのだ。
知っていながら疑われかねない行動を起こすなんて真似はやはりいくら考えてもできない。起こす気すらない。
それに、本当にどうでもよかった。
最後の最後で突き放すようなことをしてしまったのは、純奈の方なのだから。
あの赤司先輩とはいえ、人を諌めることはできても人の感情のコントロールはできないはずだ。
更衣室の戸を開けてから、美里香は純奈に目を向けた。
「部活、出るんでしょ?」
「う、うん…」
「そんな顔しなくても、もう純奈には何もしない」
「…」
「二人で何を話したのかは知らないけど、赤司先輩の目も光ってるし」
「…赤司先輩は、私の話を聞いてくれただけだよ」
「…そう。とりあえず、そこにいるのも何だから入ったらどう?」
「え…あ、うん」
美里香にそんな風に言葉をかけられるとは思っていなかったのか、純奈はあからさまに目を丸くした。
とはいえ、長考しているだけの時間の余裕はなくて、促されるままに更衣室に入っていく。
後に続くように美里香も更衣室に入り、空いているロッカーを開けて私物を押し込んだ。
そうしている間も純奈の視線を感じていたのか、美里香がその手を止めて純奈の方に顔を向ける。
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