act.32










朝がやってきた。

久しぶりに帝光の制服に袖を通したような気がする。
入院中、クリーニングに出されていた制服は最後に着たときとは見違えてしまうほど綺麗になっていた。
学校へ行く準備をしてから玄関に向かっていく。

あんなことになってしまったからには、家族には何かしら相談するべきなのではないか、何度も考えた。
しかし、何も話を切り出せないまま今日を迎えてしまった。
どこからなんと言えばいいのか分からない、なんて思ってしまい以前から全く進歩がない。
話したところで、そんなものはただの思い込みだと跳ね除けられてしまうのではないか、次々と嫌な想像が頭の中を駆け巡る。
ここで家という唯一の逃げ場さえ失い、自ら居心地の悪い空気にしてしまうことだけは避けたい。
信用していないわけではないけれど、不安を感じてしまう以上、とても冷静に話せる気がしなかった。


家の戸を開けた瞬間、心臓のざわめきに気付く。
どれだけ状況が好転したと自分自身に言い聞かせても、それでも恐怖を打ち消せなかった。
学校に行けばどんなことになるか、容易に想像できてしまうからだろう。
しかし、躊躇いを振り切るようにゆっくりと足を踏み出した。



「…いってきます」






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テーマ「人外ファンタジー」
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