赤司先輩は、優しい。
男子バスケ部の部長として、主将として、私のことを気にかけてくれているのだろう。
チームメンバーの誤解によってこんな風になってしまった私を、ほんの少しでも気の毒に思っているのだろう。
だから、こんなに親切にしてくれているのだ。
それ以上もそれ以下もない。
でも、たまに考えてしまう。
赤司先輩がそれ以外の意味をもって私に親切に接してくれていたなら、なんておこがましいにも程がある想像をしてしまうのだ。
そんなことを考えていると、急に赤司先輩の表情が曇った。
「…純奈、聞いていなかっただろう」
「えっ!あ、あの…ごめんなさい…」
「集中できないなら、少し休憩でもしようか」
「だ、大丈夫です!集中できるからまだやります!」
「…そんなに力強く言わなくていい。じゃあ、もう一度だけ説明するから聞くんだよ」
「…はい」
気を取り直して、赤司先輩の説明に耳を傾ける。
集中力が散漫してしまう理由は、おそらく頭に引っかかっていることがあるからだろう。
というのも、先程赤司先輩と話していた女子生徒がやけに私を見ていたような気がした、なんていう些細なものだ。
もちろん、そんな気がしたという曖昧なものだから、実際にはさして見ていなかったかもしれない。
ただ、その女子生徒の去り際の瞳を思い出すと、また何かが起こりそうな気がした。
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