「…あ」



帰りのホームルームが終わってから赤司先輩と待ち合わせている教室に向かっている途中、赤司先輩の姿を見付けた。
しかし、一人ではない。
赤司先輩の同級生と思われる女子生徒と話をしている。
女子生徒は見るからに嬉しそうに話していて、とても話しかけられる気がしない。
桃井先輩や美里香とはまた違った清楚な雰囲気を醸し出している風貌で、遠目から見入ってしまう。

数秒間、二人が話している光景を眺めていたけれど、はっと我に返った。
そして、すぐさま来た道を引き返す。
ただでさえ私は誰に知られているのか分からない。おまけに悪い印象付きだ。

いつまでも、このままなのかな。
床を見つめながら足を踏み出した瞬間、正面から誰かにぶつかってしまった。
慌てて顔を上げる。



「ご、ごめんなさい」

「ん〜?あ、純奈ちん」



ぶつかってしまった相手はあろうことか紫原先輩だった。
大きい体で、気付かない方がおかしいはずなのに、それでも気付かないほど考え込んでしまっていたのだろうか。
続きの言葉が出てこなくて目を泳がせていると、いつもと変わらない調子で紫原先輩が口を開いた。



「考え事〜?」

「あ…はい、ちょっと、ぼーっとしてて…」

「純奈ちん、いつもぼんやりしてるよね〜」

「…そ、そうかもしれないです」

「…それ、勉強すんの?」

「え?」



紫原先輩の指差す先は私の手元にある教科書だった。
鞄にしまわずに持ち歩いていたから気になったのだろう。
赤司先輩との約束を思い出しながら、小さく頷いた。






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