今日は教室の空気がどこか違っていた。
まるで、何か面白いものを発見して、全員がそれを共有して楽しんでいるような、そんな空気だった。
何があったのかは分からなかったけれど、自分から聞きにいったりしなくても情報は自然と回ってくる。
そんな確信があった。
思った通り、少しするとお喋りなクラスメイトが近付いてきた。



「美里香、聞いた?」

「ううん、何かあったの?」

「間宮さんの画像が出回ってるんだって」

「純奈の画像…?」

「私には間宮さんには見えなかったんだけどね」



詳しく話を聞けば、すぐにこの状況を理解できた。
それにしても、尽きることなく次々とネタを仕入れてくる人にはつくづく感心してしまう。

どうやら、繁華街で純奈らしき人が中年男性を連れて夜遊びしているところを見かけたらしい。
それを見て、咄嗟に手持ちの携帯で写メを撮ったようだ。
今は何より、この場に純奈がいないことだけが純奈にとっての救いだったと思う。

つい先日まで純奈は入院していたというのに、事実さえ二の次に考えてしまうような都合のいい態度には笑えてしまった。
純奈なんだから、そんなことをするはずがない。
確信はあったけれど、やっぱり主張する気にはなれなかった。



「でもさ、間宮さんって入院してたんだよね」

「うん、退院したばっかりじゃないかな」

「…やっぱり違うのかな」



純奈の話を面白がっている人は、言うまでもなく大勢いる。
けれど、実際はこうして本当のことに薄々ながらに勘付いている人もいるのだ。
そのことを純奈が知ることは当分ないかもしれない。

ふと純奈と一緒にいたときを思い出した。
問題が起こるまでは本当に何事もなく、平穏な日々を送っていたと思う。
内心呆れることや腹立たしいことはなくはなかったかもしれないけれど、事の発端以外は翌日になれば忘れてしまうような微々たるものだった。
こんな風に思い出してしまうなんて、あのときこそが幸せだったとでもいうのか。
純奈にとっては幸せだったかもしれないけれど、あたしにとっては幸せだったとは言いがたい。

けれど、今も幸せとは言えそうになかった。
あたしは今、何を求めているんだろう。





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