嫌なことというのは、考えれば考えるほど的中してしまうもので、気付けば私は生徒指導室にある大きい机を挟んで先生と対面していた。
膝を押さえている手の平に嫌な汗をかいているのが自分でも分かる。
先生は言葉を選ぶように、しばらく眉をしかめて黙り込んでいたけれど、やがて思い切ったように口を開いた。



「一応、確認しておきたいんだが…ここ数週間はずっと入院していたんだな?」

「はい、そうです…ええと、二週間くらいです」

「外出もしてないんだな?」

「…出歩いたのは病院内の散歩くらいで、家に帰ったりどこかに出かけたりは一度もしませんでした」



やっぱりそうだよな、なんて自問自答するように呟いては頷かれる。
話に全くついていけない。
私のことで何かあったことは考えるまでもなかったけれど、一体何があったのか気になってどうしようもなかった。



「…先生、あの…何かあったんですか…?」

「ああ…匿名で報告があったんだよ。君が夜の繁華街で変な男と歩いているっていうね、画像まであったからまさかと思ったんだが…」

「え…!?」

「いや、それが後ろ姿だったんだがどうも似てないと思ってね…匿名だから信憑性にも欠けていると思って確認したかったんだよ」

「ち、違います…!先生が見たのがどんな画像なのか知らないけど…絶対に私じゃないです…」



突然のことに気が動転してしまいそうだった。
一体どのような画像を見たというのだろうか。
私だと思ってしまうようなものだったのだろうか。
何もかもが分からなくて、危うくパニックを起こしてしまいそうになる。
第一、匿名ということを隠れ蓑にそんなでまかせを生徒指導の先生に報告するなんて信じられない。
誰なのかは分からなかったけれど、今の私を取り巻く状況を面白がっている人物の仕業にほぼ間違いないだろう。

放心していると、気遣うような先生の声が聞こえてきた。



「報告が本当のときもあるが、悪質な悪戯としてこういう報告をされることもあるから、今回は君の言葉を信じよう」

「…ありがとう、ございます…」

「ただ、本当だった場合は相応の処分をされるから気を付けるように」

「…はい」



分かってくれるような先生でよかった。
それにしても、問題に問題を上塗りするような人物に対して腹が立ってどうしようもない。

生徒指導室を出たときには、もう予鈴の直前だった。
昼休みをこんな話だけで潰してしまうなんて、やりきれない気持ちに苛まれる。

少しでもうまくいくかもしれないと思えば、その期待を打ち砕くように新たな問題が現れて、それに悩まされてばかりだ。
まるで見えない何かに行く手を阻まれているのではないかと思ってしまう。
自分の幸せと不幸せを天秤にかけたところで、とても釣り合う気がしなかった。





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