純奈は赤司に顔を向けて、こわごわと口を開いた。



「赤司先輩…」

「なんだ?」

「…あんまりできなくても…その、怒らないでください…」

「怒らないよ」



赤司先輩はおかしそうに呟いた。
そう言われてしまった以上は何も言うことができず、静かに頷く。

失礼なことだけれど、黒子先輩の方が優しく教えてくれるんじゃないか。
そんな考えが脳裏に浮かんでしまった。
今までずっと赤司先輩に対して、厳しい人という印象があったからだろうか。
もちろん今は、単に厳しいだけの人ではないと分かってはいるけれど、反射的に思ってしまう。

二人の会話を横で聞いていた黒子は、話が一段落ついたのを見届けると、ふと笑みを浮かべた。



「これで少しは安心ですね」

「…はい」



月明かりに浮かんだ黒子先輩の表情からは、この状況を面白がっている様子は微塵も感じられない。
これでよかったんだ。そう自分に言い聞かせる。
勉強を教えてもらうからといって、赤司先輩のことだから、ある程度の前準備はしておかなければいけないだろう。
けれど、こんなことでもなければ自らここまで勉強に集中することはなかったかもしれない。

歩いていると駅に近付いてきて、黒子先輩が口を開いた。



「僕は向こうなので、ここで」

「ああ」

「あ、黒子先輩…また明日」

「はい。気を付けて帰ってくださいね」



黒子先輩が小さく頭を下げて、赤司先輩が軽く手を振った。
行き交う人混みの中に溶けるように消えていく黒子先輩を見送る。
それから、赤司先輩と途中まで一緒に帰ることになった。






×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -