「…何?そんなに見て、何か言いたいことでもあるの?」

「美里香…あ、あのね…」

「…」

「私、バスケ部…辞めたくないの。だから…辞められない」

「…」

「…それだけ」



純奈の声が二人きりの更衣室に静かに響いた。
気を張り詰めていたのか、純奈は脱力するように小さく息を吐いて、自分のロッカーに向き直る。
純奈の言葉を耳にしても、美里香は動じる素振りも見せなかった。
美里香はロッカーの中から着替えを取りながら呟く。



「純奈は…あたしが意味もなく、あんなことしたと思ってる?」

「…え?」

「純奈にとってはなんてことないものだったのかもしれないけど、あたしは…」

「…美里香…」

「…」



そこまで言うと、美里香は我に返ったように表情を戻して、純奈を鋭い視線を向けた。
それから先に手早く準備を済ませて、更衣室から出ていってしまう。
純奈はわけが分からないと言わんばかりに目を白黒させながら美里香の背中を見送った。


胸の内で、まさかそうなのではないかと思っていたことが、だんだんと現実味を帯びてきていることに気付いた。
やはり、美里香は自分の頼ってばかりの姿勢に日頃から苛立ちを募らせていて、それがとうとう限界を超えてしまったのだろうか。
思ってはいたけれど、心の片隅ではそんなことはないだろうと思い込んでいた。そちらの気持ちの方が強かったのかもしれない。
今の美里香の言葉によって、考えないように遠ざけていた思考を強引に目の前に引き寄せられたような、そんな気にさせられた。
そのことについて怒っているのならば、謝るしかない。
しかし、あんな風に睨みつけられてしまっては、謝罪の言葉さえ冷静に聞いてもらえる気がしなかった。
衝動的だったとはいえ、階段から突き落とすほど美里香は怒っていたのだ。
今さっき何もしないと口では言ったけれど、下手に刺激をすれば次は何をされるか分からない。

美里香についていくように更衣室を出ていくこともできなくて、タイミングを見計らいながら戸の方に目を向ける。
その瞬間、戸が開いて桃井先輩が入ってきた。
入れ違いでやってきたものだから、美里香と顔を合わせたのではないかと思ったけれど、どうやら違うようだ。






×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -