「…」



教室に入った瞬間、美里香の姿が目に入ってきた。
思えば、美里香も学校に来るのは早い方だ。
私より遅れて学校に来たことなんて、あまり見たことがないかもしれない。
私が来たことに美里香は気付いているのだろうか、見当もつかないまま自分の席に鞄を置いた。

自分にとって唯一の友達だと思っていた美里香。
無意識のうちに美里香も自分と同じように、私が美里香にとって唯一の友達だと思い込んでいたところがあったのだろうか。
依存とまではいかないかもしれないけれど、誰より頼りにしていたことは確かだったから、考えてしまう。





時間が経つにつれて、教室にはクラスメイトたちが集まってきた。
入院していたからとはいえ、二週間以上は学校に来ていなかった純奈を見て、あちらこちらから微かな衝撃の声が上がる。
こうなることは予想できていたからこそ、純奈は静かに立ち上がり、教室から出ていった。

美里香は自分の席で頬杖をついたまま、純奈の背中を見つめる。
一人でぼんやりしている様子を見かけたのか、ちょうど登校してきたばかりの女子が美里香に声をかけた。



「おはよ、美里香」

「あ、おはよう」

「…間宮さん、退院したんだね」

「うん、足も大丈夫そうだった」

「もう学校には戻ってこないんじゃないかなって思ってたんだけどな」

「…なんで?」

「だって、噂やばいじゃん」



その言葉で、学校中で持ち切りになっている純奈の噂を思い出す。
ここ最近はそれ以外の問題が多くあったせいで、記憶から少しだけ薄れてしまっていた。

純奈の噂なんて、もはや関与していないに等しいからこそ、どこからかまた新たな噂が出てきたのではないかと思ってしまう。
第三者の存在だけでここまで話が大きくなるなんて、つくづく驚かされる。
純奈ならば、もしかしたらそういうこともありえるのではないか。
その可能性が少しでもあるからこそ、こんなくだらない噂が根強く残ってしまうのだろう。

そして、キセキの先輩たちだ。
純奈はキセキの先輩たちの傍にいるということが、どれだけ周囲に影響を与えているのか分かっているのだろうか。
こんな噂が流れている以上、それを実感する出来事がこれから起こるだろう。


事態は好転なんてしていない。
何一つとして、変わってなんかいないのだから。





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