僕の幼馴染みはどうしようもないバカだ。
最初は彼女の行動だけではなく話すことも理解できないくらいだったけれど、今は不本意なことに大分慣れてきた。
「征十郎くん、征十郎くん」
アヒルの子のように後ろについて歩く彼女は小さい頃から良い意味でも悪い意味でも何一つ変わっていない。
廊下で出くわしてから声をかけられて、それを無視して歩いていたのにいつまでもついてくる。
そのうち諦めてどこかに行くだろうと思っていたけれどなかなか諦めないものだから痺れを切らして振り返った。
「…さっきから、何なんだ」
「あ!ようやく聞こえた!もう、聞こえてないみたいで心配した」
「…」
無視していたことさえ気付かずに屈託なく笑う彼女に何かを言う気も失せてしまう。
それにしてもどうしたら今の状況で聞こえていなかったから振り返らなかったと思えるのだろうか。
話を説明したところでややこしいことになりそうな気がして、溜息を吐いた。
すると、向こうが何かをこちらに差し出していることに気付く。
何かのノートのようだ。
「数学の宿題。これ手伝ってほしくて」
「…それくらいの量なら自分で片付けろ」
「えー!?なんで!?征十郎くん、数学は好きじゃなかった!?」
「好きとも嫌いとも話したことはない。仮に僕が数学を好きでも、それがお前の宿題を手伝うこととは何も関係ないだろう」
「せっかくだから征十郎くんに解いてもらう方が数学も嬉しいんじゃないかと思って…」
「意味が分からない。それから解いてもらうってどういうことだ、それはお前の宿題だ」
「そんなあ…」
「情けない声を出すな」
「ケチ!」
「ああ、ケチだよ」
つくづく呆れてしまう。
そして、よく相手をしてやっていると自分でも思った。
これが自分の幼馴染みとは…本当にそうなのだろうかと今でも現実を疑ってしまうほどだ。
自分の物言いに挫けることなくついてくる根性だけは認めてもいいけれど他のことに関してはなんともいえない。
ノートがよれるほど握り締めてこちらを恨めしそうに見ている姿を見て、仕方ないと背中を向けて呟く。
「…部活が始まるまでの間なら少しだけ時間をとってもいい」
「え?」
「教えてやるだけだ、解くのはお前だぞ」
「う…うん!ありがとう!」
「本当に甘えすぎだ、お前は」
「…ごめん」
「やる気がなかったら…分かってるな?」
「やる気はあるもん!すごく頑張る!」
「…」
本当に、本当にバカだ。
僕の幼馴染みはどうしようもないバカなのに、それでもやっぱり、彼女は僕に一番近しい存在なのだ。
121227
公開:121123~121222