「名前ちんって、俺のこと好きだよね〜」

「うん、大好きだよ」


名前ちんは、よく俺のことを好きだと言う。聞いてもいないのに言うときがある。女の子だからなのかもしれないけれど、どうしてこんなに恥ずかしげもなく大好きなんて言えるのだろうか。たまに、名前ちんの思考が理解できない。名前ちんの緩んだ笑顔をじっと見つめる。しかし、特に大したリアクションをとることもなく、再び自分のお菓子の袋に手を伸ばした。そういえば、名前ちんはたまに何か考え事をしているのか、上の空になる。ぼんやりしていて、そういうときは大抵話を聞いていない。何回か名前を呼びかけてあげると我に返る。
ふと隣から視線を感じて、お菓子の袋を差し出すと、名前ちんは微笑みながらスナック菓子をつまんだ。口に入れて、食べ終えたところで声をかける。


「名前ちんってさ」

「うん」

「なんでいつも笑ってんの?」

「…私、へらへらしてた?」

「へらへらってゆーか…どっちかといえば、にこにこ」

「あ、ああ…うーん…分かんない。むっくんと話してるのが楽しいからかな」

「…楽しい?」


何が楽しいんだろう。可愛げもなく、そんなことを思った。だって、今日これまで名前ちんと話していたことなんて、大した話じゃない。お菓子がなくなった。バスケの練習めんどい。ケーキバイキングに行ってみたい。そんな脈絡のない話を繰り返していて、それは笑顔が自然と溢れるほど楽しいものだったとはとても思えなかった。


「むっくんは、よく私に好き?って聞くよね」

「え〜?そんなつもりないけど…そうなの?」

「うん。だって私、むっくんのこと好きってかなり言ってるもん」

「あ〜…聞いてないのに言うときあるもんね」

「…むっくん、好きって全然言ってくれないから」


その言葉が、やけに寂しそうに聞こえた。最後のお菓子をつまんで、それから名前ちんに目を向ける。


「名前ちんが聞かないからじゃん。俺みたいに」

「そ、そんな恥ずかしいこと聞けないよ」

「自分から好きって言う方が恥ずかしいと思うんだけど〜」

「なっ…」


こんなことを言われると思わなかったのか、名前ちんに思いきり睨まれた。負けじと睨み返す。睨まれたといっても、頬を赤くしながら上目遣いで睨まれたって少しも怖くない。怖くないどころか、ちょっと可愛いかも。名前ちんがこんな顔をしているところは今まで一度も見たことがなかった。それにしても、一瞬たりとも視線を外してくれない。退くに退けない状況だった。


「それなら…聞いたら、言ってくれるの?」

「…改まって言われると、ちょっとやだ」

「むっくん、私のこと好き?」

「…俺の言ったこと、聞いてないし」

「……」


徹底的に無視される。名前ちんのことだから、答えるまでは口を利いてくれないだろう。このまま根比べをしてみてもよかったけれど、名前ちんの真剣な目を見ていたら、そんなことをする気が失せてしまった。ここで下手に誤魔化したりしたら、怒るんだろうな。怒られても別にいいけど、名前ちんに嫌われるのはちょっと嫌かもしんない。色々と考えていたら、名前ちんがとうとう視線を逸らした。


「…好きじゃないなら、言ってね」

「はあ?」

「だって!むっくんから好きって言ってもらったこと、一回もないし…」

「…一回くらいはあったんじゃない?」

「ない。でも、こんなこと言ったら、むっくん…めんどくさがると思って、だからあんまり言いたくなくて」


本当に言いたくなかったのか、どこか重々しい口調だった。その言葉で、名前ちんがときどき上の空だった理由が少しだけ分かったような気がする。ものぐさな性格を理解した上で、黙っていたのだろう。いつの間にか空になっていた袋を手の中で丸めて、深く息を吐いた。


「…ま、めんどいっちゃめんどいよねー」

「…そうだよね」

「だけど、名前ちんのことだから、めんどくても考えてあげるつもりだったんだけど」

「え…」

「そう思って、名前ちんといるのにな」


ぐしゃぐしゃになった袋を制服のポケットに入れた。言葉の通りだ。名前ちんが我慢できないほど面倒な女の子だったら、最初から一緒になんかいない。お菓子を分けてあげたりしない。話していることを覚えてあげようとしない。そんなこと、言わなくても分かっていると思っていただけに、名前ちんがそんなことを思っていたなんて意外だった。部活がないとき、時間を割いてまで会っているのは名前ちんだけ、だったんだけど。やっぱり伝えなきゃ、分かんないか。


「むっくんがそんなこと言ってくれたの、初めて」

「初めて言ったもん」

「やっぱり、大好き」

「…うん。知ってる」


甘えるように後ろから抱きしめられた。嬉しそうな声が聞こえてくる。
睨んできたり、沈んだり、かと思ったら喜んだり、名前ちんって本当に忙しいよね。ちょっと真似できそうにない。それに、いつも名前ちんの方が先に好きなんて言うから、こっちが言うタイミング逃してるっていうとこもあるんだけどな。次は自分から何か言ってあげようかな。そしたら名前ちん、きっと上の空なんかでいられなくなると思うから。





130320
人格さん、リクエストありがとうございました
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -