act.13
あれからずっと一人で何もすることがなかった。
コンコンと病室の戸をノックする音が響く。
時計を見上げると16時を回っていて、今日は夕飯を運んでもらうまで病室を訪れる人はもういなかったはずだ。
春日さんかな。そう思いながらリモコンを手に取り、ついていたテレビを消してから戸の方に向かって返事をする。
「…どうぞ」
「失礼します」
入ってきた人物を見て、言葉を失った。
赤司先輩だ。
とんでもないことが起きてしまった。
わけが分からなくてベッドの上であたふたしていると赤司先輩に訝しげな目を向けられた。
そして、大丈夫か?なんて真剣なトーンで言われてしまう始末だ。
なんとか平静を装って赤司先輩に小さく頭を下げる。
「…こんにちは…」
「…大怪我だな」
「そう、ですよね…あの…あんまり動けないので、そこにある椅子に座ってください…」
「うん、そうさせてもらうよ」
赤司は純奈の頭や足をちらりと見て、傍に置いてあったパイプ椅子をベッドの傍まで持ってきた。
赤司先輩は…大丈夫だ。
他のキセキの先輩のことを考えると頭が可笑しくなりそうになるけど…赤司先輩は、平気だった。
自分でもわけが分からなかった。
知らないうちに赤司先輩がこんなに心の拠り所になっていたなんて。
そもそも赤司先輩しかいないのだ。
今、帝光で私とまともに話してくれる人なんて赤司先輩以外いない。
来てくれるなんて思わなかったからただただ嬉しかった。
「今って部活の時間…ですよね?」
「…今日は土曜日だよ」
「あ、そっか…土曜日は部活、お昼まででしたよね…」
「ああ…どれくらい入院することになりそうなんだ?」
「最低一週間って聞きました…」
「そうなのか…」
「…はい」
純奈が弱々しく呟くと赤司は椅子から立ち上がって窓際の方にゆっくりと歩いていった。
その様子を純奈は何も言わずに見つめる。
窓から差し込んでくる橙色の夕日が病室を照らしていた。
病室の真っ白な世界が橙に染め上げられていくようで、純奈は視線を窓の外に移す。
赤司も同じように窓の向こうに目を向けていて、視線を変えないまま口を開いた。
→