act.12










意識を手放す寸前、もうこのまま意識なんて取り戻さなくてもいいんじゃないかと本気で思った。

こんなことをされるほど美里香に嫌われていたなんて。
仲直りをするなんて悠長なことを言っていられないほど問題が大きくなっていたなんて。

知らなかった。
気付かなかった。
分からなかった。















視界の闇が晴れていく。

ゆっくりと少しずつ目を開けた。
容赦なく差し込んでくる光が眩しくて表情を歪める。
長いこと目を閉じていたから、光の刺激が強すぎて目を開けていられない。


ここ…私の家じゃない…どこなんだろう…。


その疑問を抱いた瞬間、薬品特有の匂いが鼻先を掠めた。
そして目の前に広がる白い天井。
もしかするとここは病院なのかもしれない。


美里香に学校の階段から突き落とされて…それから、どうなったの…?

あんなことがあっても…まだ生きてたんだ…。

…なんで生きてるんだろう…。


純奈が天井に目を向けたまま呆然としていると、部屋にある花瓶の水を取り替えようとしていた看護師がベッドに近付いていった。
言葉を発することなく天井を見つめていたから、静かに視線が重なる。
純奈が目を覚ましたことが衝撃的だったのか看護師は確認するようにそろそろと純奈の顔を覗き込んだ。
その表情は明らかに心配そうなもので、純奈はどうすればいいのか分からず目を泳がせる。



「…目が覚めましたか?」



返事をする代わりに小さく頷くと、看護師は目を見開く。
そして花瓶の手入れも投げ出してバタバタと慌ただしく病室から出ていってしまった。






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