act.9










赤司に傷の手当てをしてもらってから純奈はありがとうございます、と消え入りそうな声で呟いて今度こそモップを手に取る。
さっきは思わず泣きそうになってしまったけれどなんとか堪えられた。
ただでさえ、今日は昼休みに赤司先輩の前でみっともない姿を晒してしまっているというのだから、そんなことが一日に二度もあるとさすがに気まずい。

泣いたりしたら、きっと赤司先輩を困らせてしまう。

とにかくもう赤司先輩を困らせたくなくて、お願いだからしっかりして、そう自分に言い聞かせながら床掃除を始めた。

純奈が下を向いて雑務を再開する様子を見て、赤司は自分のすぐ傍に置いてある給水器に手を伸ばす。
それに中身が入っていることに気付くと純奈に声をかけた。



「…これは一軍の給水器か?」

「あ…そ、そうです」

「もう出来上がってるみたいだな。持っていくぞ」



純奈が頷くと赤司は重い給水器を両手に一つずつ持って体育準備室から出ていってしまった。
突然のことにろくに反応もできないまま純奈はその場に取り残される。

赤司先輩…持っていっちゃった。
あれも本当は私が持っていかないといけないのに。

申し訳ない気持ちをどうにもできないまま急いで床掃除を済ませる。
ぶちまけられた給水器を洗ってすぐに新しいドリンクを作った。
粉を入れて水を入れて溶かそうと中身をかきまぜているとき、背後からドアの開く音がまた聞こえてくる。
今度は誰が来たのかと純奈が目を向けると、赤司が戻ってきていてまた給水器を持っていこうとしている姿が見えた。
主将である赤司にそんな雑務をこれ以上は任せられない。その一心で純奈は慌てて赤司に声をかける。






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