act.5
「黄瀬先輩、おはようございます」
「美里香ちゃんじゃないスか、おはよっス!」
朝、登校中に運よく黄瀬先輩を見付けることができた。
さらに運のいいことに周囲にファンの女子たちがまだ誰もいない。
今日は朝からついてる、そう思って嬉しくなりながら黄瀬先輩に笑顔で挨拶をした。
向こうもすぐに気付いて手を振ってくれる。
いつも黄瀬先輩の周りには三年生の先輩、ファンの女子たちが群がっているからなかなか話しかけられない。
同じ部活に入っているとはいえ、妙に馴れ馴れしくして誤解を招いて睨まれたらそれこそ大変なことになってしまう。
…純奈のように。
あたしはあんな目には絶対に遭いたくない。
それにしても、こんな風に黄瀬先輩と二人で登校するなんて久しぶりだった。
心のどこかでタイミングよく会えないかなといつも思っていたから、本当に嬉しくて黄瀬先輩に笑いかける。
微笑みかけた意図がつかめなかったのか、黄瀬先輩は笑顔を絶やさないまま頭の上に疑問符を浮かべていた。
「なんだか今日は朝からゴキゲンっスね!」
「黄瀬先輩に会えたからですよ」
「…俺も美里香ちゃんに会えて嬉しいっスよ!せっかくだから一緒に学校まで行きましょっか」
「はいっ」
黄瀬先輩の微笑みにこちらの頬も緩んで今までずっと張り詰めていた緊張の糸が少しだけほどけたような気がした。
キラキラと輝くような笑顔に胸が高鳴る。
昨日は何をした、どんな店が好き、なんて他愛のない話をしながら通学路を歩いていると、ふいに黄瀬先輩が呟いた。
「…純奈ちゃん、最近どうスか?」
「え?あ、あの…あたしは最近あんまり話さないから純奈のことはよく分からないです…」
「そっか…未だによく分からないんスけど、ああいう話が出てきちゃうとなかなか話しにくくなるかー…」
「…そう、ですね…」
「本当にスキャンダルって怖いスね。おかげでバスケ部もけっこう大変なことになっちゃってるし…」
ぼんやりと遠くを見つめながら黄瀬先輩は口を尖らせた。
その表情からは、純奈に対する心配と疑惑が窺える。
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