act.4
私は赤司先輩がその場で退部届けを出すことまで予想していると思っていたから、改めて話をしようと言い出してくるとは思わなかった。
そして、もっと私を軽蔑するような目を向けてくると思っていた。
それなのに赤司先輩の様子はいつもと大して変わらない。
思い違いかもしれないけれど、そんな気がした。
廊下を歩いていく純奈と赤司の姿は、周りの生徒たちから見ると意外な光景だったのだろう。
純奈が一人で歩いているとき以上にざわついていた。
こんなことになってしまって、また誰か妙な話を作って面白がるに違いない。
嫌な想像と周囲の視線が辛くて純奈は赤司の手を離そうと力を入れるけれど、離してもらえなかった。
派手な抵抗もできず、赤司の考えを理解できないまま床に目を伏せて黙ってついていく。
手を引かれるままに連れていかれた先は廊下の最奥にある空き教室だった。
ここでこれから赤司に散々なことを言われる展開しか想像できなかった純奈はまた暗い気持ちになる。
「…そこの椅子に座って」
空き教室に入ると、赤司は椅子に座るように促した。
丁寧な対応に純奈はおずおずしながら従うように赤司が目を向けた先にある椅子に腰を下ろす。
長テーブルを挟んで、純奈と向かい合わせのところに赤司は椅子を引いて座った。
どうしよう…なんて言おう。
今しか言うチャンスないんだから、話さないと…。
純奈が話の切り出し方に迷っているうちに、痺れを切らしたのか赤司が先に話を切り出した。
「話って、これのことかな」
これ。そう言われて純奈はずっと伏せていた目を上げた。
先程まで自分が持っていたはずの退部届けをなぜか赤司が持っている。
いつの間に…そう思ったのも束の間、どのように説明すればいいのか未だに話の整理がつかない。
退部届けに名前を書いたとき、頭の中で会話のシミュレーションをしたはずなのに、いざというときに思い出せなくなる。
とはいえ、いつまでも返事をしないままでいるわけにもいかずに頷いた。
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