act.29










眠りに就きたい。
もう何も考えなくて済むように、一刻も早くこの悪夢のような現実から遠ざかってしまいたい。

普段はここまで意識しなくとも眠りに落ちるはずなのに、今は毛布をかぶって目を閉じても意識が離れなかった。
病室にかかっている時計の秒針の音だけが耳鳴りのように頭に響いて、静かに時間だけが過ぎていく。
今だけでもいいから、この絡みついて離れない思考から逃避したい。





眠れなくて寝返りを打ったとき、ノックの乾いた音が聞こえてきた。
しかし、純奈は何も返事をしない。
春日さんが来てくれたのかもしれないと頭の片隅で思ったけれど、ベッドから起き上がりもしなかった。
毛布を深くかぶって、ノックの音さえ拒絶してしまう。

春日さんならば、返事をしなければ寝ていると思って強引に入ってくるようなことはしないはずだ。
とにかく今はとても話をする気になれない。

そう思ったけれど、なぜか戸の開く気配を感じた。
毛布をかぶっているせいで視界には映らないけれど、すぐに誰かが部屋に入ってきたのが分かる。
とはいえ、突然のように起き上がるわけにもいかず、純奈は動揺しながらもその気配に神経を凝らした。



「純奈…寝てるのか?」



何も見えない中、聞こえてきた声に目を見開く。






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